刀さに 短編
叱られたい
「小鳥よ、疲れているのか?」
休憩にと茶を淹れてくれた山鳥毛が私に尋ねる。全然疲れていないし元気が有り余りすぎて困っているくらいだったので、何故その疑問が出てきたのか理解できず、「へ?」と素っ頓狂な反応をしてしまった。
「いや、先程、子猫がな……。理由もないのに小鳥を叱れるか、と毛を逆立てていたものだから気になってしまったのだが……」
心配そうな顔をしながら「聞けば小鳥の願いだというではないか」と言う。ああ、私のくだらない願望のせいで困らせてしまっている。一部の審神者の皆様なら分かっていただけるかもしれないが、アレだ、なんだかわからないけど、男士にこんな感情あんな感情を向けられたい、言われたい、言わせたい、してほしいという唐突に現れる発作だ。それをさっきまで一緒にいた南泉にポロッと言ってしまったのだ。ちょっと、私にガチギレしてみてくれないかと。胸倉とか掴んじゃっても良いよと。まあ、お分かりの通り「寝言は寝て言え」と一蹴されてしまったのだが。
「人は、疲れると突拍子もない事を言い出すと聞いたのでな。大事ないか」
山鳥毛の大きな手が背中に添えられる。パッと見の風貌はカタギには見えないが、その内はなんて優しいのだろうか。こんな私利私欲にまみれた主でごめん。ほろりと心の中で涙を流す。
「心配ありがとう。とっても元気だし山鳥毛が不安になる事ないよ」
「それなら良いのだが」
「南泉に言ったのは、ちょっとしたおふざけというか、何というか、どういう顔で怒るのかなって気になったから言ってみただけよ」
己の願望をなるべくソフトに言い換えて伝えると、山鳥毛は手を顎に当て何か思案しているようだった。
「代わりと言ってはなんだが」
何か提案があるらしい。少し楽しそうな様子で彼は続ける。
「私が小鳥を叱るのはどうだろうか」
なんだって?山鳥毛ってこういうのにノってくれるんだな、と感動しながらも、是非ともお願いしたい、と前のめりになるのを抑えて「いいの?」と首を傾げ、取り繕った。
「勿論だとも」
彼にしては珍しく、ニコニコと効果音が付きそうなほどの笑顔をこさえている。わあ、どんなふうに怒ってくれるのかな、なんてそわそわしていると、彼はごほん、咳払いを一つ。準備が整ったようだと思うや否や、山鳥毛の右腕が上がる。
(エ!?まさか殴らないよね!?)
反射で肩をすくめ、ギュッと目を瞑ると思っていたような衝撃は来ず、代わりに先程私の背に添えられていた大きな手が、頭の上にポンと乗せられた。目を開くと、覗き込むようにして山鳥毛がこちらを見ている。目が合うと、フッと笑って、
「こら」
と一言。
ギュンッッッと心臓が締め付けられた。何という破壊力。トキメキが止まらない。頭の中から祭囃子が聞こえてくる。お祭り騒ぎである。
「どうだろうか」
どうもこうも100点満点を超えて100億点だ。私は取り繕うのを忘れて、
「有難うございます、最高です、ウルトラハッピーです」
と、早口で捲し立てた。多分ウルトラハッピーは伝わっていないだろうが、上気している私の頬を見て、満足した事を感じ取ったのだろう。
「お気に召したのなら何よりだ」
少し照れた様子で私に言った。
「ふふ、私のくだらないお遊びに付き合ってもらってすみませんでした」
山鳥毛さんに余計な時間をつかわせてしまったな、とちょっぴりの罪悪感はあったものの、新たな側面が見られたので事情を漏らしてくれた南泉には後でお礼をしなければ。さて、仕事に戻ろうと「お茶、ありがとうございました」声を掛けると、山鳥毛は去り際にまた、爆弾を落としていった。
「こんな事を言うのは小っ恥ずかしいが、子猫がいつも小鳥と戯れているように、私もこうしてみたかったのだ」
