コンビニとレストラン


「こんなところに一人で、寂しくないのかな…?」

「は…?」

小倉フレンチトーストを頬張りながらそう呟く彼女に、俺は思わず間抜けな声が出た。


《コンビニとレストラン》


今日は久しぶりのデートで。
しかも、おそらく俺の人生最大の勝負のデートで。

なのに、高速は事故による予想外の渋滞。
仕方なく、下道に降りて、ナビに従い見慣れない田舎道を走っていた。

会えなかった3ヶ月に起きた出来事をあれこれ話す助手席の彼女。

彼女は、夢だった教師になって今年で3年目。お堅い仕事柄、メイクはあくまでもナチュラルなのに、会うたび綺麗になっていく彼女。焦りを感じていた時期も正直、あった。
俺もようやく今年、社会人になり、少しは大人に見えているのだろうか。
そんなことを考えながら、彼女の話に相槌を打っていると…。

ぐうぅ~。

「あ…。」

思わず、ちらりと左を見れば、真っ赤になっている彼女とばちっと目が合った。
「あ、あれ?た、ただ、座ってるだけなのに、ね?どうしてお腹がすくのかな?く、黒崎くんの方が疲れてるはずなのにね?」
それでも、えへへと照れ笑いする、高校時代から変わらない彼女の笑顔に、ほっとしたりして。

「たくさん喋ったからな。腹も減るだろ。」
「うう、恥ずかしいっす…。」

俺の左で小さくなる彼女に、ぷっと吹き出した。

「あ、でもね、大丈夫だよ!レストランまでちゃんと我慢でき」

ぐうぅ~。

彼女が建前を言い終わらないうちに、本音を漏らす腹の虫。
ハンドルを握りしめて笑いを堪える俺と、さらに真っ赤に熟していく彼女。例えばこんな空気がたまらなく好きなわけで。

「コンビニでもあれば、寄るんだけどなあ…。」

しかし、今走っている一本道の周りは、見渡す限りのどかな田園風景。風が田に植えられた苗を撫でていき、緑色の波が穏やかに寄せては返すこの風景に、コンビニはあまりにも不釣り合いなものであり。

「…期待できそうにねーな…。」

そう低く呟く俺の声に、彼女の声が2オクターブ上から重なった。

「く、黒崎くん!コンビニだよ!」




驚いたことに、緑一色の景色の中に、見馴れた赤いコンビニの看板。そこで俺は缶コーヒーを、彼女は小倉フレンチトーストとミルクティーを買った。店員は、中年のおっさんが1人。多分、店長なんだろうなとか思いながら、手早く会計を済ませてコンビニを後にした。
高速を使う予定だったのに下道を走っているのだ。あまりのんびりしてはいられない。





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