とにかくイチャイチャ一織のお部屋






「あ、たつきちゃん!茶渡くんに小島くんに浅野くんも、明けましておめでとう!」
「…よ。あけおめ。」
「おめでとう、織姫、一護。」
「…ム。」
「井上さん、一護、あけおめ~!!」

1月1日、元旦、初詣。

待ち合わせ場所の神社の鳥居の前に、2人揃って現れた一護と織姫。
アタシ達に呼びかける直前、2人が繋いでいた手をパッと離したのを、アタシは見逃さなかった。











《初詣》










「あれ?現地集合って言ってたのに、2人一緒に来たんだ。」

珍しく、待ち合わせ場所に最後に現れた2人。
「待たせて悪りぃ」と小島達に詫びる一護の隣、織姫にそう小声で尋ねれば。

「うん。その…。」

織姫は「ぽっ」と頬を染め、マフラーに顔を少し隠しながら答えた。

「夕べ、年が明けてすぐに黒崎くんから『明けましておめでとう』のメールが来てね。『今年最初のメールが黒崎くんで嬉しいな、今年最初に会うのが黒崎くんならもっといいのにな』って返したら、今朝黒崎くんがわざわざウチまで来てくれたの。」

…出たな、オレンジ甘やかし大王め。
普段は「めんどくせぇ」だの「どうでもいい」だのが口癖で、クールを気取っているくせに、織姫の要望だけはいつだって丸飲み。
ま、それだけ織姫を大事にしてるんでしょうけど。

「ふぅん。それで、新年初ハグやら初キスやら一通り済ませてから、一緒にここに来たのね?」「………あ、た、たつきちゃん!参拝の列に並ばなきゃ!」

アタシがそう言って探りを入れれば。
真っ赤な顔で、慌てた様に参拝の列に並ぶ一護達を追いかける織姫。

…ああ、きっちり済ませてきたのね、新年初ハグも初キスも。
多分、2人が一番最後にここに来たのも、それが理由なんだろう。

「…新年から熱いわね、ホント。」
「なぁに?たつきちゃん。」
「何でもない。」

この無自覚イチャップルは、今年もさぞ安泰でしょうよ…そんなことを思いながら参拝列に織姫と並べば、一護は直ぐに織姫を自分の前に引き入れた。

「わ!いいの?黒崎くん。」
「別にいいだろ?参拝順、俺とオマエが入れ替わるだけなんだから、誰にも迷惑かけてねぇし。」

そう言いながら、一護は織姫を背後からぴったりガード。
痴漢防止策に違いない。

「えへへ、黒崎くんが包んでくれてるから、寒くないよ。」
「そうか?」

ええ、ええ。
アタシもあんた達を見てると熱くて仕方ないわよ。

「ねぇ、参拝が終わったら何か食べたいなぁ。お腹空いちゃった。」
「オマエ、さっき家でぜんざい食ってきたばっかだろ?ほら、これでも口に入れとけ。」
「わぁ!チョコレートだ、ありがとう黒崎くん!」

一護のコートのポケットから用意周到に出てきたミルクチョコレートも、多分初めから織姫専用。

しかも一護のヤツ、包み紙をちゃんと剥いてやって、雛鳥みたいに口を開ける織姫に食べさせて。

…ホント、「溺愛」以外の言葉が見つからない。

「ほら、番が来たぜ。」「うん!ねぇ、皆で一緒にお詣りしようよ!」

チャリンチャリン。
皆で賽銭を投げ入れて、パンパンと手を鳴らす。

そして、それぞれの願いを胸に、静かに手を合わせて。

「…よし。」

どうか、志望校に無事合格できますように…と。

アタシが参拝を終え隣を見れば、一護とその腕の中にいる織姫は、2人揃ってまだお願い事の最中。

高3だから、とか関係ない。

この2人、絶対「今年もずっと一緒にいられますように」とか願ってる…。

ほら、その証拠に、お詣りが終わった途端、織姫は一護を振り返って。
照れくさそうな一護と見つめ合って、幸せそうに笑ってるもの。

「…なんだかなぁ。」

それだけラブラブなんだから、別に神様の力なんて必要ないんじゃない?って言いたくなるのをグッと我慢して。
次は神社に並ぶ露店をぶらぶら覗く。

「わぁ、黒崎くん、みたらし団子だよ!」
「ちょっと待ってろ。」

別におねだりされた訳でもないのに。
一護は直ぐに団子を買うと、それを織姫に手渡した。

「えへへ、ありがとう~。」
「待て、井上。」
「ほえ?」

団子の串を持って小首を傾げる織姫の首から、一護はまずマフラーを取り外し。

「タレがつくと汚れちまうからさ。」
「あ、そっかぁ。」

更に織姫の胡桃色の髪を後ろへ流し、手の甲を覆っているセーターの袖口をくるくると巻いてやって。

「ほら、食っていいぜ。」
「うん、ありがと~。…うふふ、美味しい!」

…ど、どんだけ過保護なの、このオレンジ甘やかし帝王は…。
「微笑ましい」なんて次元はとっくに通り越し、もはや呆れるしかない一護と織姫の無自覚イチャイチャぶり。

ダメダメ、新年早々一護を殴っちゃ…そう自分に言い聞かせ、震える拳を何とか収める。

…その時。
アタシ達の横を、見慣れた顔が2つ、すっと横切った。

「あれ、今のって3組の北山と瀬川じゃね!?」

そう言う浅野と一緒に振り返れば、腕を組みながら歩いているカップルは、確かにその2人で。

「付き合ってるって噂は本当だったんだね」なんて小島の話を聞きながら、その後ろ姿を眺めていれば、織姫がなぜかまた「ぽっ」と顔を赤くした。

「わぁ…ラブラブだね。」
「ったく…よく人前であんなにベタベタできるよな。信じられねぇぜ。」
「うん…見てる方がドキドキしちゃうよね。」
「………!!」

耳を疑うような一護と織姫の会話に、思わず愕然として。
そのまま開いた口が塞がらないアタシを見て、一護がさも不思議そうに首を捻る。

「どうした?たつきも水色も啓吾も目が点になってるぜ?」
「「「ひ…他人のコト言えるかぁっ!この無自覚バカップルがっ!!!」」」

アタシと小島と浅野の魂の叫びが、新年の境内にこだました。











「な、何だよ、訳分かんねーヤツらだな…。」
「ム…一護…。」
「おい…チャドまで何でそんな顔してんだよ?」
「五十歩百歩…どんぐりの背比べ…人の振り見て我が振り直せ…どれがいい?」
「は?ホントに意味分かんねーんだけど…。」




(2016.01.01)
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