とにかくイチャイチャ一織のお部屋






《何度目の青空か》





「わぁぁ、秋の公園も素敵ですなぁ!」

土曜日だというのに、終日補講に縛られた俺達。

その帰り道、井上の発案で気分転換に公園に寄り道することにした。

公園へ足を踏み入れると同時に駆け出した井上が、色とりどりの木々の葉を見上げて、長い髪とスカートを靡かせながらくるくると回っている。

その姿は、さながら秋の妖精が舞い降りてきた様だった。

「…確かに、いつの間にか随分とイチョウの葉が色付いてるな。」
「うん!綺麗だよね!」

井上は俺を振り返り、にっこりと笑って。
追い付いた俺の腕を掴むと、公園の奥へとぐいぐい引っ張っていく。

「ど、どした?井上。」
「いいからいいから!」

珍しく強引な井上に、半ば引きずられる様について行けば。
…そこに広がっていたのは、秋を迎え、薄茶色と緑が何とも言えないコントラストを描いた芝生。

「ねぇ黒崎くん、ごろんってしよう!」
「は?」
「2人で干し草のベッドで眠るハイジになりましょう~!!」
「おい、井上っ!」

井上はそう言うと、まさしく無邪気なハイジのごとく、芝生に飛び込みごろんっと横になった。

やれやれ、制服汚れてもしらねぇぞ…なんて溜め息を1つつく俺を、井上は満面の笑みで手招きする。

しゃあねぇ、井上が突然こうして童心に帰るのはいつものことだし…いっちょ付き合ってやるか。
そう決めた俺もまた、芝生に入り、井上の隣に身体を投げ出した。

「………。」

思っていたよりもずっと柔らかい芝生が、俺を受け止める。
そして目の前に広がるのは、雲一つない、真っ青な空。

無意識の間に、ほう…と息を吐き出して。
身体から、余計な力が抜けていくのを自覚する。

「…今日…こんな綺麗な青空だったんだな…。」

窮屈で忙しない日常。
やっと気付く空の青さに目を細めて。
しばらくは、2人並んで黙ったまま空を見上げていたけれど。

「…ねぇ…黒崎くん。」

ふいに井上に名を呼ばれ、俺がゆっくりと首を横に動かせば、胡桃色の髪を芝生に広げた井上は、俺を見つめてふわりと微笑んで。

「…この空も、黒崎くんが護ったんだよ…。」

…そう、言った。

「…井上…。」
「この空だけじゃないよ。この芝生も、公園も、この秋の澄んだ空気も…全部全部、黒崎くんが護ったんだよ。」

そう言うと、俺の髪に手を伸ばし、よしよし…と撫でる井上。

「私や…黒崎くんの大事な人たちはみんな、ちゃんと知ってるよ。だから…負けないでね。」
「…井上…。」

その言葉に、ああ、井上には何もかもお見通しだったんだ…そう確信する。

今日の補講の3コマ目は、俺を目の敵にしている数学教師が担当。

オレンジ色の髪とケンカばかりしていた中学時代…という経歴を持つ俺に、この数学教師は入学当初から何かと突っかかってきて。虚退治で授業を抜けることが多くなった俺への当たりは益々キツくなり、今日の補講でも、難しい応用問題ばかりをあからさまに俺に指名してきた。
…まぁ、今日の補講は自由席で、俺の隣には井上が座っていたから、彼女がこっそりくれたメモを片手に、さらりとそれをかわしてやったけどさ。

…けど、それでも何となく拭いきれない苛立ちの様なモノが、俺の心の片隅にくすぶっていたことに、井上は気付いていたんだろう。

だから、気分転換に公園に寄ろう…なんて…。

「…なぁ、井上。」
「なぁに?」
「…ありがとな…。」

俺が告げたその感謝の言葉に、井上は少し目を丸くして。
そしてまた直ぐに、ふわりと笑った。

ああ、俺にはこんな無敵な味方がいるんだ。

あんなちっぽけな数学教師ごときに、心を乱すなんてバカバカしいよな?

「…あとな、井上。」
「うん?」
「俺が護った…ってオマエは言ったけどさ。俺達で、護ったんだよ。オマエも、チャドも、石田も…みんなでさ。」
「黒崎…くん…。」
「ついでに、髪に葉っぱついてるぜ?」
「え?」

芝生に綺麗なビロードを描く井上の髪に、赤く染まった葉っぱの髪飾りが1つ。
俺はそれを指で摘まんで取ると、井上の髪を一房指先に絡めて。
スルリ…とほどけていくその感触を楽しんだ後、その手で井上の手を取った。

「…なぁ、井上。」「なぁに?」
「この次は……やっぱ、何でもねぇ。」
「?…うん…。」

見上げれば、果てしなく広がる青空。
手の中には、井上の小さな手。

どちらも、俺が護った…そして、これからもずっと護り続けたいモノ。

だから、次はちゃんと、自分から気付こう。

この青空に。
そして、誰よりも俺を見て…そして解ってくれる、愛しい存在に…。













「…なにアレ。2人で並んで寝転がって、至近距離で見つめ合っちゃったりして…。」
「うーん…『草枕でピロートーク』ってところかな?」
「水色なにそれ!?なんかエロくね!?…ぐぇっ!」
「ウルサい!…あ、髪さわった。」
「噂によると、『髪をさわる』って、一通り経験した後に出る行為だって説があるらしいよ。」
「なにぃぃっ!?じゃあ一護は井上さんの全てを既に…ぐはぁっ!」
「だからウルサい浅野!」
「あ、ついに手を繋いだ。」
「うわぁぁ!俺達も一緒だって、あの2人完全に忘れてる!?それとも見せつけてんの!?なぁどっちどっち!?」
「…まぁ、どっちにしても、あの2人だけの世界に割って入る勇気は持ち合わせてないけどね。」
「そうね。帰ろっか。」
「うん。まだ当分あの状態が続くに違いないからね。」
「あああ!『一護と井上さんがいちゃつくからか~えろ♪』みたいなノリすら羨ましいぃぃ!」
「「ウルサいですよ浅野さん。」」
「うわぁぁ、2人揃って敬語いやぁぁ!」






(2015.11.28)
4/6ページ
スキ