ほのぼの一護✕織姫のお部屋
休日の朝。
朝食の後、ソファに腰掛けのんびりと新聞を読んでいれば、目の前で咲織と真護が何やら派手に広げ始めた。
「しんくん、おままごとしよう!」
「いーよー。」
《おままごと》
一応男の子の真護も、ままごと遊びを喜んでやるんだな…なんてのは、古臭い発想なんだろう。
2人は楽しそうにおもちゃの料理セットを広げ、本日二度目の「朝食」の準備に入った。
「じゃあ、咲織がママやるから、しんくんがパパね!」
「あいっ!」
そう役割を決めた咲織は、次に満面の笑みで俺を振り返り。
「パパの出番は、あとね!」
「あ?…お、おう…。」
まぁ、パパ役は真護がやるなら、俺は必要ねぇ訳だし?
ぶっちゃけ、もう少し新聞を読んでいたいから、出番がない方が有り難かったりして…。
「じゃあ、今から朝ご飯を作りま~す!」
「あーい!」
そう言うと、咲織と真護は楽しそうにおもちゃの皿や茶碗にプラスチック製の食べ物を盛りつけ始めた。
カチャカチャという音と子供の笑い声が響くリビング、窓から差し込む柔らかな日差し。
「ああ、幸せってこういうのを言うんだな…」なんて柄にもなく思いながら、俺は目では新聞の文字を追いつつ、耳で子供達の様子をうかがっていた。
…やがて。
「あなた~!ご飯ができましたよ~!」「あーい!」
無事に完成した「朝食」を前に「いただきます」をする咲織と真護。
その声を、新聞越しに聞いた俺は。
「ぶっ!」
視線を2人に移すと同時に、思わず吹き出していた。
なぜなら、ママ役の咲織の前には、大皿にドーン!と山の様に盛られた食事が。
パパ役の真護の前には、控え目に盛られた一回り小さな食事が並べられていたのだ。
「わぁい!おいしそ~う!パクパク…。」
「く、くく…。」
新聞で顔を隠し、必死に笑いをかみ殺す。
いや、確かに我が家の食卓は、嫁さんの皿が一番大盛なんだが…子供は本当によく見てるんだな、感心するぜ。
しかも、「パクパク」と食べる幸せそうな顔まで嫁さんを忠実に再現してやがる。
「ママ、これおいちいよ。」
「わぁ、本当に?今日は隠し味に、しょうゆと生クリームとわさび、仕上げにガラムマサラを使ったのよ!」
「ぶぶっ!」
そのやり取りに、堪えきれず再び吹き出す俺。
確かに、付き合い出したころの嫁さんなら、そんなデスコラボも普通に有り得る話だったからな。
俺が胃薬片手に、そりゃあ膨大な時間をかけて、嫁さんの料理を「フツー」にしたのだ。
咲織と真護に、俺が親として最初にしてやったこと…と言えば、実は「ノーマルな食卓を提供すること」だったのかもしれねぇな、うん。
「ごちそうさま~!」
「わぁ、ママたべるのはやいっ!」「だって主婦の朝は忙しいんだもんっ!」
「ぶぶぶっ!」
嫁さん並みのスピードで皿を空にし、嫁さんの口癖をそのまま口にする咲織に、笑いを堪える俺の腹筋がビクビク震える。
や、主婦じゃなくても、朝じゃなくても、出会った頃からメシはいつでも瞬殺だったっての…。
「さあ、お片付けしますね!パパはお仕事にいってらっしゃい!」
そして、俺を大いに楽しませてくれた朝食シーンはどうやら終わり、パパの出勤へと移ったのだが。
「あーい!………あ。」
可愛らしく元気な返事の、その直後。
突然、ままごとの最中に、パタリと倒れる真護。
「あなた?」
咲織の呼びかけにも、ピクリともせず。
まったく動かないままの真護に、俺は思わず新聞をソファの脇に置いて身を乗り出していた。
「真護、どうし…!」
がばっ。
俺の心配をよそに、真護は突如として起き上がり、咲織を見てニカッと笑って。
「ママ、ほろうがでたよ!」
「まぁ、大変!」
「ぐはっ!」
そのやり取りに、ソファから崩れ落ちる。
…つまり今のは、俺の死神化の真似…?
「さぁ、ほろうをやっつけよー!」
「わたしも行くわ、あなた!」
そう言うと、咲織と真護はオモチャ箱へてけてけと走っていき、中から最近行ったファミレスのお子さまセットについてきたオモチャの剣を取り出した。
そして。
「「えーい!」」
「なにぃっ!?」
同時に俺に飛びかかってくる、咲織と真護。
「ちょ、待て!何するんだよ!?」
「パパはぁ、虚の役だから!」「はぁ!?俺の出番は虚役なのかよ!?」
「うん!こんしょー!ばんかー!」
オモチャの剣と無邪気さを武器に、俺に飛びかかってくる子供2人。
虚役ってのが、ちょっと釈然としねぇけど…ま、当たらずとも遠からずってヤツかもしれねぇし?
何より、勇敢そうにオモチャの剣を振り回すこの2つの笑顔が、愛しくて堪らないから。
「…よっし!覚悟しろよ、2人共!簡単には魂葬されてやらねえからな!」
「きゃはは!ばんかー!」
「真護!ばんかーじゃなくて卍解だ!」
「えーい!げつかてんじょう!」
「咲織、それも何か微妙に違うっての!」
休日の朝。
偶にはこんなのも、悪くない…けど。
この「おままごと」は、黒崎家でしか通用しねぇってことだけは、あとでしっかり教えてやらねぇとな。
「…ふふ、賑やか。」
ドタバタ、きゃはは。
洗濯物を干していれば、リビングから聞こえてくるのは激しい音と楽しそうな声。
きっと、一護くんが咲織や真護と遊んでくれているに違いない。
「…なんだか、幸せ…。」
青空にはためく、洗濯物。
優しくて、家庭的な旦那様と、可愛い子供2人に恵まれて。
今日も、いい1日になりそう…そんなことを思った。
「おい、織姫ー!助けに来てくれ!虚役交代だ!」
「ふふ、聞こえないフリしちゃお♪だって主婦の朝は忙しいんだもんっ!」
(2015.12.12)
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