ほのぼの一護✕織姫のお部屋
《おまけ》
「そっか…ありがとう、一護くん。」
夜、二人の子供がしっかり寝息を立てているのを確認して。
織姫を俺のベッドへと呼び、今朝の出来事を話した。
「夏休み中にね、咲織が作文を書くって言うから傍で私が見てたら、やっぱりちょっと…って内容でね。『咲織、それは書くのやめようか』って私が口出しばかりするから、咲織が怒っちゃって…。」
「成る程な。」
「私には内緒で書くんだって言って、書き上がった作文も隠しちゃったの。まさかそんな内容だったなんて…。」
「難しいよなぁ。」
咲織や真護にとっちゃ、死神や虚もごく普通に身近な存在。
ついこの間も、現世に遊びに来たルキアや恋次に死覇装を着せてもらってご機嫌になっていた。
「真護もね、今すごく言葉を吸収してる時期でしょ?この間、私に両手を差し出して『こぜちゅ、こぜちゅ』って言ってて…何か欲しいの?って聞いても首を振って…。」
「で?」
「どうも『私は拒絶する』の真似だったみたいなの。」
「………。」
「仕草はすごく可愛かったんだけどね。」
俺の腕枕に頭を乗せた織姫が困った様に笑うのを見ながら、迂闊な言動は慎まないとな…そう改めて心に刻む。
そうしてしばらく織姫の髪を撫でていた俺は、ふと咲織の作文の一節を思い出した。
「なぁ、織姫。」
「なぁに?」
「オマエ…咲織に俺のこと『運命の人』だって言ったのか?」
「………!」
織姫は、俺のその言葉にぽんっと顔を赤くして。
けれど次の瞬間にはなぜだか申し訳なさそうな顔に変わり、俺から視線を逸らした。
「…その、勝手なこと言っちゃってごめんね。でも…私にとってはそうなの。一護くんの世界をルキアちゃんが変えたみたいに、私の世界を変えたのは一護くんだから…。」
「ばぁか。」
「え?」
「何遠慮してんだよ。そういうことは胸張って言え。」
「一護くん…。」
「俺だって、オマエが運命の女だ。俺みたいな生い立ちも性格もクソ面倒くさい男をそのまんま受け入れてくれる…たった1人だ。」
「一護くん…。」
俺を潤んだ瞳で見上げる織姫に、そっと口付けて。
そのまま織姫のパジャマに手をかけ、ボタンを外し…。
「いや、ちょっと待て。」
「え?」
俺は身体を起こし、隣のベッドで眠っている咲織の顔をそっと覗く。
俺がちょんちょんっとつついても、ぴくりともせずにすやすやと寝息を立てる咲織。
「よし、大丈夫だ。」
「う、うん…?」
咲織が熟睡しているのを確認した俺は努めて静かに自分のベッドに戻り、この期に及んできょとんとしている嫁さんを組み敷いた。
「俺が今から、オマエが俺の運命の女だってこと、解らせてやるから。」
「い、一護くん…。」
柔らかな織姫の身体を抱き締めれば、彼女もまた俺の背中におずおずと腕を回し、きゅうっ…としがみつく様に力を込めて。
ああ、本当にコイツは。
俺と名字を同じにして、俺の遺伝子を受け継ぐ子供を2人も産んで尚、自分が「唯一」で「一番」だと自惚れることを覚えない。
全く、今夜は自分がどれだけ愛されてるか思い知るまで、寝かせてやらねぇからな…なんて密かに企みながら。
俺は溢れる愛しさそのままに、華奢な身体をかき抱き、口付ける。
それは、長く甘い夜の、始まりの合図…。
「おはよ、ママ!」
「はよ~。」
「お…おはよう。咲織、真護!」
次の日の朝。
気怠いのを押し隠し爽やかに挨拶をする嫁さんと、いつも以上にすっきりとした目覚めを迎えた俺と、子供達。
いつもの様に、4人で朝食を囲む。
すると、最近かなり上手くなったスプーンでご飯を二口ほど食べた真護は、隣に座る嫁さんの顔をじっと見つめた。
「…なぁに?真護。」
「ママは、うめのなぁなの?」
「…え?」
「うめのなぁ。」
「う、梅の…名?えっと…もしかして梅干しが欲しいの?」
「ちやう。ママ、うめのなぁ。」
確かに、真護は乳幼児期特有の舌足らずで、言葉が上手く言えないことが多々あって。
結局はこちらが推理してやるしかないのだが、今回のはどう解釈すれば良いのか見当もつかず、俺は嫁さんと顔を見合わせつつ味噌汁を啜った。
…そのとき。
「わかった!しんくん、『うめのなぁ』じゃなくて『うんめいのおんな』だよ!」
顔をぱあっと輝かせて、咲織が大声で叫ぶ。
「う、うんめ…のんな?」
「『ママは、パパのうんめいのおんな』だって言いたいんだよね!」
「あいっ!」
「ぶっっ!!」
咲織の発言に、思わず味噌汁を吹き出す俺。
「げ、げほっ…!し、真護…何でそれを…!」
「パパがゆってた。」
気まずさと恥ずかしさで顔を真っ赤にする嫁さんと俺の前で、そりゃあ嬉しそうに笑う子供達。
「だから、何で俺達の夜の会話を知ってるんだよっ!!2人ともぐっすり寝てたじゃねぇか!」
「い、一護くん、落ち着いて…。」
「パパ、ママ、謎が解けて良かったねぇ!」
「きゃはは!ママ、うんめのんな~!」
(2015.11.03)