ほのぼの一護✕織姫のお部屋






「あーあ、夏休みも今日で終わりだなぁ…。」

朝、小一になる娘の咲織が、カレンダーを見上げ切ない溜め息を漏らす。

そうだ、俺もガキの頃はこの日が憂鬱で仕方なかったな…なんて遠い記憶を思い出し、新聞で顔を隠しながらこっそり笑ってしまった。










《8月31日》











「そう言えば、宿題は全部終わってるのか?」
「うん!勿論だよパパ!」

新聞をたたみながら俺がそう尋ねれば、自信たっぷりに咲織が頷く。

仕事が忙しくて、普段から子供の世話は織姫に任せっきりの俺。
きっと咲織の宿題も織姫が面倒を見たに違いないが、父親として娘の宿題がどんなレベルなのか知らないってのもマズイよな。

「咲織、その宿題パパに見せてくれるか?」
「うん!いいよ!」

咲織はとてとてと走ってリビングを出ると、ランドセルを持ってすぐに戻ってきた。

「お、もうランドセルに全部入れてあるのか、さすがだな。」
「えへへ~。」

照れたように咲織が笑う。
胡桃色の髪も、顔も、照れた時の笑い方まで、コイツは本当に嫁さんそっくりだ。

「これは…作文か?すごいな、びっしり書いてあるじゃないか。」
「うん!」
「ママと頑張ったのか?」
「違うよ、ちゃんと咲織が1人で書いたんだから!」
これまた嫁さんそっくりにぷうっと頬を膨らませる咲織の頭を「ごめん」と撫でて。
手にしたその作文をよくよく見れば、タイトルに書かれた文字は「わたしのおとうさん」。

「……なぁ咲織、これパパが今から読んでもいいか?」
「うん!いいよ。」

期待半分、不安半分…一体どんなことが書いてあるのか、父親として気にならない訳がない。

俺は作文を読む許可を作者本人から得ると、ドキドキしながらその平仮名だらけの作文を読み始めた。

『わたしのおとうさん
いちねん くろさきさおる

わたしのおとうさんは、とってもかっこいいです。』

…ヤバい、一行目でいきなり、顔がにやける。
てか、織姫の力を借りずに咲織1人で書いたんだから、これは咲織の本音だよな?

『かみはうまれつきおれんじいろです。なまえはいちごだけど、おれんじです。』

……まぁな。子供は漢字の意味なんざ知らねぇからな、素朴な疑問なんだろうな。

『きっともうすぐあかくなって、いちごいろになるとおもいます。』

や、ならねぇから。

『あと、おとうさんはおいしゃさんのしごとをしています。びょうきのひとをなおすおとうさんはすごくかっこいいです。』

…やべぇ、こういうこと娘に言われると、柄にもなくぐっときちまうな…。

『でも、そんなおとうさんがけがをすると、おかあさんがりっかであっというまになおしてしまいます。だから、おかあさんがおとうさんのおいしゃさんです。』

…この一文、後で削除な。
『おとうさんは、おしごとでとてもつかれているので、ときどきそふぁでねてしまいます。』

…ああ、そう言えばこの間、ソファでうたた寝しちまった俺の腹に、コイツがいつの間にかタオルケットをかけてくれてたんだよな…。

『でも、ねてるとかじゃなくて、しにがみかしてほろうたいじにいってるだけのときもあります。』

…この一文も、後で削除な。

『それから、おとうさんはかっこいいので、おかあさんともなかよしです。』

…何だこれ。

『そふぁにおとうさんとおかあさんがならんですわっててれびをみているとき、ときどきこっそりてをつないでいます。』

…げ、バレてる!?

『あと、おかあさんはねるとき、さいしょはわたしやおとうとといっしょにねているけど、ときどきこっそりおとうさんのべっどにいったりしてます。』

「うおぉい、何で知ってるんだよ!これも削除だ、削除!」

『おとうさんはとってもかっこいいので、おおきくなったらおとうさんとけっこんしたかったけど、おとうさんはおかあさんのうんめいのひとなので、できません。』
「…うんめいのひと?」

つまり俺が「運命の人」だって…織姫がそう言ったのか?

『おかあさんは、おとうさんとけっこんできて、わたしやおとうとがうまれて、まいにちいっぱいしあわせだよっていいます。』
…織姫…アイツ…。

『だからわたしも、おとうさんみたいなうんめいのひとをみつけて、おかあさんみたいにしあわせになりたいです。』

いつも家事も育児も任せっきりで、感謝しなくちゃいけないのは俺の方なのに…。
もうすぐアイツの誕生日だし、プレゼントはちょっと奮発しねぇとな。

『そして、おとうさんとおかあさんみたいに、たくさんのほろうをこんそうできるふうふになりたいです。』

…駄目だ、このまとめの一文も削除だ。

てか、削除するところだらけで、文章量が半分以下になっちまう気が…。

「あのな、咲織。」
「うん、なぁに?」
「この作文、パパのことがすごくよく書けていて、とっても嬉しいよ。」
「本当!?」
「だからこれ、パパがもらってもいいかな。」
「ええっ、だってそれ宿題なんだよ?」
「いや、その…学校に出す作文は読書感想文にしたらどうだ?ほら、家にある本、どれでもいいからさ。」
「う…うん。」

そうして、渋々と頷く咲織と本棚から本を選び、原稿用紙を机に広げて。

俺が見守る中、咲織はすらすらと読書感想文を書き始めた。

さすがに俺と織姫の娘だ、文才があるのかもな…なんて、1人親バカしてみる。

『…このまほうつかいみたいに、ほうきにのってそらをとんでみたいです。だから、こんどしにがみかしたおとうさんにそらをとんでもらえるようにたのんでみます。』

…駄目だ、読書感想文も咲織1人に書かせちゃ…。


(2015.08.30)
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