甘えた系一護✕母性系織姫のお部屋







そのまま、どれくらいの時間が過ぎただろうか。

「………悪い。」

私が黙ったまま黒崎くんの腕の中に収まっていれば、やがて私の耳元で、ぽつり…と零れた、彼の声。

「え?どうして謝るの?」
「……カッコ悪りぃなぁ…って…俺…。」
「そんなこと、全然ないよ?」

私がそう言っても、やっぱり黒崎くんは私の肩に顔を埋めたまま。

私が黒崎くんの腕にそっと手をかけ、ゆっくりと解けば、眉間に皺を寄せた…どこか拗ねた子供みたいな表情の彼と目が合った。

何だかそんな黒崎くんが可愛く思えて、私がくすり…と笑みを零せば、黒崎くんはやっぱり憮然とした顔をしたけれど。

「…おいで。」

私がそう言って、彼に向かって両手を広げれば、ゆっくりと私に身体を預ける黒崎くん。

そのまま、オレンジ色の頭が私の胸に沈んでいくのを受け止める。

…じんわりと広がっていく、温かさと愛しさ、心地よい重み。

そのツンツンとしたオレンジの髪をよしよしと撫でれば、幸せを感じるのは私の方。

「…本当は、さ。」
「うん。」
「住む場所が近くなったら、もっとずっと一緒にいられると思ってたんだ。」
「うん。」
「けど…現実は全然違ってさ。近くにいるのに会えねぇって、むしろキツいな…って。」
「うん。」
「だから、早く一緒に暮らしてぇな…って。」
「うん。」「けど…オマエ教師だもんな。同棲とか…マズいの解ってるし…。」
「うん…ありがとう…。」

…本当は。

彼の言いたいことは初めから何となく解っていた。

私が大学を卒業するのと同時に、黒崎くんはプロポーズしてくれて。

そして、私の勤務する学校が、彼の大学の近くの小学校になって。

これで、何もかも上手くいく…そう信じて疑わなかったのに。

いざ、新生活が始まってみれば、平日はお互い忙しくて、とても会う時間なんて取れなくて。

休日だって、今日みたいにレポートや仕事に追われたりして。

婚約はしたものの、結婚への準備は遅々として進まない状態のまま。

けれど、私の職業を気遣って、一緒に暮らすのはきちんと式を挙げ、籍を入れてからにしよう…そう言ってくれたのも黒崎くんで。

理想と現実、本年と建前。
そんなものの狭間で、思い通りに行かないもどかしさに捕らわれてしまうことは、きっと誰にでもあること。

…まして、自分が未だに学生の身であることを内心気にしている彼なら、なおのこと…。

「…ねぇ…黒崎くん。」
「…おう。何だ?」
「私がね、平日にお仕事を頑張れるのは、休日に黒崎くんが待っていてくれるからなんだよ。」
「……。」
「会えない時も、毎晩眠るときには黒崎くんのこと考えてるんだよ?」

オレンジの髪を撫でながら黒崎くんにそう語りかけても、彼が顔を上げることはなくて。もぞもぞっ…と少し身じろぎした後、彼が小さな声で呟く。

「……仕事、すっげぇ楽しそうじゃねぇか…。」
「うん、楽しいっていうか…やりがいを感じてる。でも、世界中でいちばん大切で大好きなのは、黒崎くんだよ?」
「……本当かよ?」
「本当だよ。クラスにも甘えん坊な子はいっぱいいるけれど、こーんなに甘えさせてあげるのは、世界中で黒崎くんだけですぞ?」

私がそう言って、ぎゅっと黒崎くんを抱きしめる腕に力を込めれば。

黒崎くんは私の胸に顔を埋めたまま、ぼそぼそっと呟いた。

「…当たり前だろ。ガキにだってさせるか、こんなこと…。」
「ふふ、解っていればよろしいです。」








…ねぇ、黒崎くん。

もう少しだけこうして抱き合って、お互いに充電したら、また頑張ろうね。

そしたら、今日と明日の計画を立てようよ。

今日は、早めに2人でベッドに入って、ベッドの中でいっぱいくっついて。
そうして、明日また、レポートの続きを頑張ろうか?

…それとも、今夜は2人で夜更かしして、頑張ってレポートを完成させちゃって。
そうして、明日は思いっきり寝坊して、美味しいブランチを食べに行こうか?

指先にオレンジの髪を遊ばせながら、ふと窓の外を見れば、優しい午後の日差し。

ねぇ、どんな風に休日を過ごそうか…なんてあれこれ考える、こんな時間も私には贅沢なんだよ…って、ちゃんとあなたに伝わっているかな。
今、私の腕の中にいるのは、世界中でいちばんカッコよくて強くて優しくて、私よりずーっと大人なのに…時々ちょっぴり甘えん坊で、ヤキモチさんな…私だけの、愛しい太陽…。














「…よし、やるか。」

…しばらくして、黒崎くんがむくりと顔を上げた。

「お、充電完了ですか?」

私がそう言えば、黒崎くんはニッ…と笑いながら私を見上げて。

「おう。…つか、このままでいたら俺きっと窒息死する。」
「へ?」

そして身体を起こすと同時に、私の唇に押し当てられる黒崎くんの唇。

「…ありがとな。」

不意打ちのキスにきょとんとする私に、そう言って笑うあなたは、誰よりカッコよくて…なのにイタズラを成功させた男の子みたいな顔をしていた。











(~「Is this LOVE?」その後のお話~)



(2015.11.07)
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