とにかくイチャイチャ一織のお部屋





そこは、二人だけの秘密の場所。











《ぐるぐるカーテン》











「黒崎くん、お待たせしました!」

手芸部のミーティングを終え、家庭科室から教室まで全力で走る。
私が教室の扉を開ければ、夕日が差し込むオレンジ色の教室に、もっと綺麗なオレンジ色の髪の彼がいた。

「おう。部活終わったか?」
「うん!ありがとう、待っててくれて。」
「別に大した時間待ってねぇよ。課題もほとんどやらずに終わっちまったし。」

黒崎くんはそう言うと、越智先生特製の黒崎くん専用課題プリントをピラリと私に見せて、肩を竦める。

「あはは。難しそうだね。」
「まぁ、仕方ねぇけどな。虚退治で授業サボりまくってるんだし。」

そう言いながら、黒崎くんはてきぱきと机の上の物を鞄にしまって、ガタリと椅子から立ち上がった。

「…さ、帰るか。」
「うん!」

大きく頷いて、私の定位置、大好きな黒崎くんの左隣に並ぶ。
けれど、2、3歩歩いたところで、黒崎くんは足をぴたりと止めた。

「…黒崎くん…?」
「………。」

不思議に思った私が顔を上げれば、黒崎くんはじっと私を見つめていて。

その蜂蜜色の真っ直ぐな瞳に、胸の内を見透かされてしまいそうで、私は慌てて笑顔を作る。

「ど、どうしたの?帰ろうよ。」
…けれど。

そんな私の頬に伸びてきて優しく触れる、黒崎くんの大きな手。
ああ…やっぱり、彼には誤魔化せなかったみたい。

「…井上、泣いたのか…?」
「えへへ、バレちゃいましたか。」

教室へ来る前、ちゃんと鏡で目が赤くないか確認してきたんだけど…やっぱり敵わないなぁ。

私は黒崎くんの視線から逃げる様に少し俯いて、理由を説明した。

「実はね、さっき部活のミーティングの時に、友達がすごく落ち込んでて…どうしたの?って聞いたら、彼にフラれちゃったんだ…って。」
「………。」
「その子、彼のこと本当に大好きだったし、とってもお似合いだったし…なのに、仕方ないねって無理して笑ってるから…なんかそれ見てたら、ね。」
「………。」
「ご、ごめんね、心配かけて。もう大丈夫だよ!帰ろう!」

黙ったまま話を聞いてくれた黒崎くんに、精一杯の笑顔を見せて。
努めて明るく私が笑えば、黒崎くんは呆れた様にハァッと大きく溜め息をついた。

「…ばぁか。」
「へ?」
「無理して笑ってるのは…オマエだろ。」
「きゃ…!」

黒崎くんはそう言うと、突然私の腕をぐいっと引っ張って。
教室の扉とは反対…窓側へと私を連れていき、カーテンをバッと広げると私と黒崎くんを包みこんだ。

「あ…。」

カーテンの中、遮られる日常。黒崎くんと私、二人だけのオレンジ色の世界。

カーテンにぐるりと巻き取られた小さな小さな世界の中、ぴったりとくっつく私と黒崎くん。

彼の温もりが、鼓動が私を包む。
…泣いてもいいよ、って言うみたいに。
隠し事なんてしなくていいよ、全部解ってるから…って言うみたいに。

「…確かに、オマエは優しいからさ。その友達とやらの痛みまで引き受けちまって、泣いたんだと思うけど…それだけじゃないだろ?」
「………。」
「…考えちまったんだろ?もし、自分もそうなったら…って。」
「……だって…。」

だって、黒崎くんみたいなかっこよくて優しくて素敵な人が、私を選んでくれたなんて…今でも不思議で仕方ないもの。

黒崎くんを信じてない訳じゃないの。

でも…どんなに好きだと思っていても、人の気持ちは突然変わってしまうものなんだって、そんな現実を目の当たりにしてしまったから…。

じわり、オレンジ色の世界が滲む。

黒崎くんは私の頬に手を添えると、そっと涙を拭ってくれて。

私の顔を上に向かせると、ふわり…舞い降りてきたのは、優しいキス。

涙だけじゃなくて。
私の不安も弱さも全部、拭い去るかの様に。

「ばぁか。俺がオマエを手放す訳ねぇだろ。」
「……うん…。」
「変わらねぇよ。これからもずっと…。」
「……うん…。」
ぐるぐると巻かれたカーテンの中、黒崎くんと抱きあって、キスをする。

キスの合間、ゆるゆると瞼を上げれば、私の瞳に映る「世界」は黒崎くんだけ。

…でも、それでいい。
それがいいの。

「なぁ、井上。」
「うん。なぁに?」
「俺、今日は井上の家に寄ってくからさ…さっきの課題、教えてくれよ。」
「うん。」
「あと…ここに来るまで、廊下走ってきただろ?アブねぇから、次はちゃんと歩いてこいよ。」
「うん。」
「あと…好きだぜ、井上。」
「私も…黒崎くんが大好きだよ。」




2人だけの、内緒の世界。
私の醜さを隠そうと、心の中に幾重にも引かれたカーテンが、そよ風にふわりと揺れて。
そこから差し込んだのは、暖かくて優しい日射し。
私だけのオレンジ色の太陽が、「大丈夫だよ」って、私の心を照らしてくれた。













「…見ちゃった。」
「へ?何をだよ、水色。」
「一護もやるね。まぁ…教室からは死角だけど、運動場からは丸見えって詰めの甘さがまた一護らしくて微笑ましいな。」
「だから何をだよ、水色!?」
「浅野さんは見逃したんですね、まぁその方が平和だからいいんじゃないですか?なかなかに刺激的な眺めだったし。」
「ノー!敬語やめて~!」





(2015.08.27)



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