突然ですが、あたし黒崎くんとお付き合いします








突然強く引かれる腕、一護の腕の中に倒れ込む織姫の身体。
驚いて一護を見上げた織姫の唇が、一護のそれに塞がれる。

「…ん…っ…!」

ピクンと震えた織姫の身体を押さえ込むように、ぐっと抱きしめる一護。
強く、深く唇を押し当てるのは、織姫が自分と別れる状況を想定していたことに、腹を立てたから。

けれど、角度を変えて口付ける度に触れ方が優しくなるのは、彼女の心の奥に潜む不安を拭い去りたいから。

こんなにもオマエが愛しいんだと、伝えたいから…。

長い長いキスの後、一護がゆっくりと顔を離せば、織姫の大きな瞳は涙でゆらゆらと揺れていた。

「…ばぁか。何、泣きそうな顔してんだよ。」
「ごめ…なさ…。」
「だから謝るな。もし謝るなら、『付き合いだして早々に別れる心配してごめんなさい』だ。」
「黒崎くん…。」
「離す訳ねぇだろ。俺は、お試し感覚でオマエに告ったんじゃねぇよ。オマエとこれから先もずっと一緒にいたいって思ったから告ったんだ。」
「うん…。」

一護の肩に、頭をこつりと乗せる織姫。
一護からは見えなかったが、織姫の憂いの表情は次第に穏やかな笑みに、流す涙は嬉し涙に代わっていた。

「井上は、どうなんだ?もうちょっと俺と付き合ってみなくちゃ、先のことなんて解らねぇか?」

そして、一護に少しからかう様にそう問われた織姫は、跳ね起きると涙の雫を散らしながら、ぶんぶんと首を全力で振る。

「ううん、ううん!あたしも、黒崎くんとずっと一緒にいたいです!」
「なら、何の問題もねぇな。」

織姫からの期待通りの返答に、一護が満足げにニッと笑う。
そして、織姫の丸い頬に手を添えると、自分の持ちうる精一杯の誠意をもって、織姫に告げた。

「俺が大学卒業したらすぐにでも…結婚しような。」
「…っ!く、黒崎くん…ふえぇっ…!」
「ああ、ったく、また泣くのかよ!」
「だって、だって~。」

ふにゃり…と再び涙で崩れていく織姫の顔。
『幸せすぎると不安になる』とは、よく言ったもので、一護と付き合い始めた途端、織姫の心にはつねに不安の火がくすぶっていた。
けれど、今日鎮火されたその火が再び点くことは、きっともうないだろう。

「オマエ、多分解ってねぇだろうけど、相当面倒くせぇ男を選んじまったんだからな。結婚生活、覚悟しとけよ?」
「えへへ…楽しみにしてるね。」

二人の描く未来は同じところにある…そう解ったのだから…。













翌日。

「ただいま、黒崎くん!」
「お帰り、井上。」

仕事から帰ってきた織姫を、一足先に合い鍵で部屋に入った一護が出迎える。
織姫は鞄を床へ放り投げると同時に、一護の腕の中へと飛び込んだ。

「メシ、まだだろ?簡単だけど、用意しておいたから。」
「本当に!?わぁぁ!美味しそう!」

リビングにある小さな座卓に並ぶ、二人分の食事と二膳の箸。
その光景を見るだけで、織姫の胸は幸福に満たされていく。

「すごい!黒崎くん、どんどん料理が上手になるね!今日は中華だぁ!」
「旨いかどうかは、食ってみないと解らねぇけどな。さ、食おうぜ。ちゃんとうがい手洗いして来いよ。」
「はーい!」

元気よく返事をした織姫がうがいと手洗いを済ませる間に、一護は茶碗にご飯をよそい、座卓に並べる。

「じゃあ、いただきまーす!」

そして、二人が向き合って座り、パチンと手を合わせた、その時。

「おう、邪魔するぜ。」

突如、織姫の部屋の窓がガラリと開き、死覇装姿の男が入ってきた。

「な…誰だ!?」
「あっ!えーと…確か…そう、檜佐木さんだ!」
「ああ、そんな名前だったな!で、そんな珍しい奴が突然何の用事だよ?こっちは今から夕飯なんだよ!」
「…おい、俺ってそんなに影が薄かったか…?」

久しぶりに現世にやってきた檜佐木修兵は、一護と織姫からのぞんざいな扱いに思わずがっくりと肩を落とす。
しかし、ぶるっと頭を振って気を取り直すと、彼は背中に背負っていた大きな風呂敷包みをドンと二人の前に置いた。

「な、何だこれ!?」
「これか?尸魂界の皆からの、祝いの品だ。」
「お、お祝いって…?」
「そりゃあ勿論、お前たち二人の結婚前祝いだ。」
「はぁあ!?」

驚いて開いた口が塞がらない一護と織姫を余所に、修兵はその風呂敷包みを解き、中身を次々に取り出し始めた。

「見ろ、お祝いが渋滞起こしてるぜ。これが、乱菊さんから…何かスケスケの布切れが入ってるな…お、この高級そうな海老の置物は朽木隊長からだな。この羽織りは京楽総隊長からだ。見ろよ、背中に『一五』の文字、隊花の位置に六花の刺繍入りだぜ、凝ってんなぁ!で、こっちは…。」
「ち、ちょっと待てよ!何で皆が俺と井上が付き合い出したことを知ってるんだよ!」
「あ、あたし朽木さんに『誰にも言わないで』ってお願いしたのに…!」

有り難迷惑な品々を並べる修兵に一護がそう尋ねれば、修兵は平然として答えた。

「馬鹿だな。人は『ここだけの話をあちこちでする生き物』だろう?」
「な…!」
「尸魂界の情報網を甘く見ないで欲しいもんだぜ。」

愕然とする一護を前に、修兵は死覇装の袂から紙と筆を取り出し、颯爽と構える。

「…ってことで、次の瀞霊廷通信の巻頭特集は『尸魂界の救世主・黒崎一護に熱愛発覚!癒しの女神・井上織姫との愛の軌跡を辿る』で二十ページぶち抜く予定だから、早速で悪いが詳細な情報と思い出の写真を数枚提供してくれないか?」
「するかぁぁ!」
「とりあえず、これが今夜の二人の晩飯だな?…うん、旨い。これは何て料理だ?」
「黒崎くん特製の回鍋肉だよ、檜佐木さん。」
「もぐもぐ…二人の愛の飯は『ほいこーろー』と…。」
「こら、勝手に食うな!てか、途中から『突撃!隣の晩○飯』みたくなってんじゃねぇか!」
「あはは。」

織姫は、檜佐木に向かって大声で叫ぶ一護を笑顔で見つめながら、こんな毎日がずっと続くといいな…と小声で呟いたのだった。


               《終わり》 









《あとがき》



こちらは、2013年8月に発行された、りりゅ様主催の一織アンソロジーに寄稿させていただいたお話です!
素晴らしく分厚く、またクオリティも高いアンソロジーでして(特に絵師様方は皆様プロの漫画家さんですか?レベルの方ばかりで…)、出来上がったアンソロジーを拝見した際には思わず拝んでしまった思い出があります。いや、マジで。

このアンソロジーは鰤の連載が終了した後に発行されましたので、お話も恋ルキご成婚小説後で書かせていただきました。とはいえ、私の大好きな「幸せすぎて不安になる織姫ちゃんと、そんな織姫ちゃんを安心させるイケメン一護」な展開なのは、相変わらずかもしれません…(←気合いをいれるとどうしてもこうなってしまうんだな、私は)。

このアンソロジーは既に完売してしまい、もう入手不可能となってしまいましたが、参加されていらっしゃった皆様が、サイトや支部で作品を再掲してくださっていますので、是非そちらをご覧くださいませ!

ではでは、りりゅ様、読んでくださった皆様、本当にありがとうございました!(^o^)



(2021.06.13)
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