パズル
「…おい。」
「ふ、ふひぇっ?」
突然、黒崎くんの両手が私に伸びてきて。
ぼーっと考え事をしていた私のほっぺをふにっと摘まんだ。
「い、いひゃいよう…。」
「…何考えてた?」
「…にゃ、にゃんにも…。」
「嘘付け。」
私のほっぺをびろんと引っ張っていた黒崎くんの指が、一度離れて。
そしてすぐにまた、黒崎くんの大きな掌が今度は私のほっぺを包み込んだ。
正面から私を見つめてくる黒崎くんの真っ直ぐで強い瞳に勝てなくて、私は恐る恐る震える唇を開く。
「…黒崎くん…私といて…楽しい?」
「…は?」
「もっとね、性格とか趣味とか…一緒の娘の方がいいなって…思ったりしない?」
そう黒崎くんに告げている間にも、勝手に緩んでいく私の涙腺。
唇を噛みしめてそれを堪える私のおでこを、黒崎くんが人差し指で軽く突いた。
「ばぁか。」
「…だって…。」
「俺は、一緒に居たくねぇヤツとボランティアで毎日一緒にいるほど、出来た男じゃねぇよ。」
「でも……んっ…!」
まるで子供みたいに不安を口にする私の唇は、次の瞬間黒崎くんの唇に塞がれて。
やがてゆっくりと離れていく黒崎くんの綺麗な瞳に、驚いて瞬きを繰り返すだけの私が映る。黒崎くんはそんな私の頭を照れ臭しの様にグイッと抱き寄せた。
「…あのさ。正直、俺もそういう事、考えたことあるよ。『可愛くて性格も頭も良い井上の彼氏が何で黒崎なんだ』って影で言ってるヤツがいるのも知ってるしな。…けど…やっぱ、俺は井上がいいし、誰が何て言おうとオマエを手放す気はねぇんだ。」
「黒崎…くん…。」
…本当に?本当に、私でいいの?
そう問いかける胸が、熱い。
ダメ…そんな優しい言葉をもらったら…幸せすぎて泣きそう…。
「よく考えたらさ、夏梨と遊子だって双子の癖に外見も中身も真逆でさ。けどアイツらすっげえ仲いいし、真逆だからこそ上手くいってる面もあるんだ。だから…いいんじゃね?真逆でもさ。」
そんな黒崎くんの言葉を、彼の肩に顔を埋めながら聞いて。
そして私を拘束していた腕が緩んで、解放された私が顔を上げれば、そこには穏やかな笑顔で力強く頷く黒崎くんがいた。
「多分、俺と井上の凸凹加減が丁度良くて…それがしっくりハマるんだよ。ジグソーパズルみたいにさ。」
「…黒崎くん…。」
そう言って、優しく私の頭を撫でてくれる黒崎くんの笑顔に、ついに決壊する私の涙腺。私が思わず黒崎くんに飛びつけば、黒崎くんは私をギュッて抱きしめてくれた。
「…好き…黒崎くんが大好き…。」
涙と一緒に溢れ出して止まらない、「大好き」の気持ち。
黒崎くんに抱きしめられると、幸せ過ぎて、胸がきゅうって音を立てて…いつもどうしたらいいのか分からなくなる。
こんな気持ちになるのは、あなただけ。黒崎くんだけなの。
「…ありがとな。」
黒崎くんは、私の頭を何度も優しく撫でてくれて。
私が顔を上げると同時に、ふわりと重なる唇。
それはまるで磁石の様に引き合って。
唇が離れた後、黒崎くんは少し赤い顔で「俺もだ」って耳元で囁いてくれた。
「…あ、黒崎くんと共通の趣味、見つけたよ!虚退治!」
「オマエ…それ趣味にカウントするなよ。」
その後も、黒崎くんはずっと私を後ろから抱きしめてくれた。
「えっと…じゃあ、共通のお仕事?」
「俺達、給料もらったことねぇだろ。…って言うか、無理に共通点探さなくてもいいと思うぜ?」
「そうかなぁ…。」
ラグの上に座る黒崎くんの長い脚の間に、ぴったり収まる私。
私が背中を預ければ、まるでソファみたいに受け止めてくれる、黒崎くんの身体。黒崎くんの両腕は私の腰の辺りをぐるりと包み込んでる。
「まぁ…オマエと付き合うようになって、洋楽聴きながら『あ、この曲何となく井上っぽいな』って思う様になったから、そういう影響ならあるかもな。」
「あ、私もね、お笑い番組でいいネタをゲットするとね、『よし、これで明日黒崎くんを抱腹絶倒させちゃおう!』って思うよ!」
黒崎くんが時々私の首筋に顔を埋めるから、くすぐったくて身体を捩る。
「それ、成功したこと一度もないよな。」
「うう…だって黒崎くん手強いんだもん。でもいいの、いつか黒崎くんを笑いの渦潮に…!」
「笑いの渦潮ってなんだよ。…ま、いいや。期待してるぜ。」
そんな話をしながら、黒崎くんとじゃれあって。
ねぇ、黒崎くん。
もしかしたら、ジグソーパズルがぴったりしっくりハマる感じって、こんなかな?
…だって、私の身体は黒崎くんの腕の中に、こんなにも心地よくフィットしていて。
黒崎くんの腕の中にいるだけで、私は世界中でいちばん幸せな女の子になれるんだよ…。
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