パズル
《パズル》
「ねぇ、織姫。織姫ってどうして黒崎くんと付き合ってるの?」
「…ふえ?」
お昼休みの屋上。
爽やかな青空の下、幸せな気持ちで大好きなチョコバナナパンにかぶりつく私に、みちるちゃんが突然そう言った。
「確かに…織姫と黒崎くんって、タイプ的に真逆っていうか…共通点がなさそうっていうか…不思議な組み合わせよね。」
みちるちゃんの隣でお弁当をつつきながら、鈴ちゃんもうんうんって頷いていて。
私は口の中のチョコバナナパンをゴックンと飲み込むと、返事に困って小首を傾げた。
「そ…そうかな?」
「いつも黒崎くんと、どんな会話してるの?」
「えっと…大体私がボケ担当で、黒崎くんがツッコミ担当だよ。」
「そういう分類じゃなくて。」
あはは…と笑って答える私に、呆れた様にそう言う鈴ちゃん。
すると、お向かいに座っていた千鶴ちゃんが突然ばっと立ち上がった。
「そうよ、織姫!ヒメと黒崎じゃまるで共通点ないんだもの!今すぐ私に乗り換えなさいっ!なんてったって私とヒメには女っていう最大の共通点が…!」
「だからダメなんでしょ、馬鹿!」
勢いよく立ち上がった千鶴ちゃんは、すぐにたつきちゃんの拳骨を受けてその場にズルズルと沈んでいく。
たつきちゃんは、ふうっと溜め息を一つつくと私を見た。
「気にしなくていいよ、織姫。アンタは一護が好きなんだろ?それで充分なんだから。」
「…うん。」
たつきちゃんのその言葉に笑顔で頷きながら、ああやっぱりたつきちゃんには敵わないなって実感する私。
きっとたつきちゃんは、見抜いちゃったんだね。
みちるちゃんや鈴ちゃんの言葉に、私の心がさざ波を立てたのを…。
「井上、帰るぜ。」
「うん!黒崎くん!」
今日も黒崎くんが教室まで迎えに来てくれて、二人で一緒に校門をくぐる。
「…あ、そうだ井上。」
「うん、なぁに?」
名前を呼ばれて隣を見上げれば、私を見下ろす蜂蜜色の瞳と、風に靡くオレンジの髪が以前より少し高い位置に。
ああ、また背が伸びたんだね。
やっぱりカッコいいなぁ、黒崎くん…。
「ちょっとCDレンタルショップに寄り道してもいいか?そろそろ、俺の借りたいCDが出てると思うんだ。」
「了解であります!」
私がぴっと敬礼してみせれば、黒崎くんはフッて笑ってくれて。そのまま二人でレンタルショップへと足を伸ばした。
「…あ、あった。」
黒崎くんが、嬉しそうに新作シールの張られた洋楽のCDに手を伸ばす。
私は横からそのジャケットを覗いたけれど、顔も名前も知らない人。
「ついでにこれも…あとこれも…。」
黒崎くんが次々と手に取るCD達も、私にはまるで馴染みのない洋楽ばかりで。
「井上も、ついでに何か借りていくか?」
「え?いいの?」
「おう。あと1枚借りると、割引になるんだ。」
そう言われた私は、少し悩んだ結果、黒崎くんを洋楽コーナーからお笑いのコーナーに引っ張っていった。
「…どれがいいんだ?」
「えっと…ここは一つ、きみまろ師匠の漫談CDを…。」
「ぶっ!それ、高校生が借りるCDかよ!」
「だって、師匠の『あれから四十年』に従ったら、私当分このCD聴けないんだよ。」
「はいはい。」
苦笑する黒崎くんに漫談CDを手渡して、彼と一緒に会計に並ぶ。
…けれど、クールで洗練された洋楽CDのジャケットと並んだ、二頭身イラストのきみまろ師匠に「随分不釣り合いだね」って言われてる気がして。
私は思わず、黒崎くんの腕にギュッてしがみついていた。
その後は、いつもの様に私のマンションに黒崎くんが寄ってくれた。
黒崎くんには、ブラックコーヒー。
私には、砂糖とミルクがいっぱい入ったカフェラテ。
飲み物と一緒にテーブルに並べたお菓子に、黒崎くんが手を伸ばすことはほとんどなくて。
私だけが、お喋りをしながらそれをぱくぱくと口へ運ぶ。
…ねぇ、どうして?
私の取り止めもない話に相槌を打つ姿すら様になっている黒崎くんを見つめながら、心の中で問い掛ける。
クールでしっかり者で、口数の少ないあなたと、不器用でおっちょこちょいで、お喋りな私。
私は洋楽は全然分からなくて、あなたはお笑いに興味なんてなくて。
私は、甘い物が大好き、あなたは苦手。
何もかも、正反対なあなたと私。
共通の話題なんて、どこを探しても見つからないのに。
…それなのに、黒崎くんは私を彼女に選んでくれた。
今日、鈴ちゃんやみちるちゃんに言われたこと…本当はずっと私自身がいちばん不思議で不安だったんだ。
本当は…性格も趣味も味覚も黒崎くんにぴったりの、もっと素敵な人がどこかにいるんじゃないか…って…。
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