第3弾〜ラブラブな一織〜
《一織アンソロジー「パズル」&「しょうがないね」その後のお話》
「わぁぁ!!あれ見て黒崎くん!バラが咲いてるよ!」
「あ、おい井上!」
5月のとある日曜日、一緒に出かけた植物園。
俺の隣でのんびり歩いていた井上が、突然猛ダッシュで駆けていく。
井上が目指しているらしい一角には、生い茂る緑の中に、花と思しき色とりどりの点。
「…ったく、しょーがねぇな。」
俺が呆れつつ小走りで井上に追い付けば、辿り着いたそこには確かに「バラの小径」という札が立っていて、多種多様なバラがまさに見頃を迎えていた。
「…綺麗…。」
「…だな。ってか、井上よくあの距離でバラの花だって判ったな。俺には花らしいことしか判らなかったぜ。」
うっとりと呟く井上に感心する俺。
咲き誇るバラ達に目を輝かせていた井上は、俺を振り返るとふわりと笑った。
「バラって、今頃に咲くんだな。」
「うん!!今日この植物園に来て良かったぁ!だってバラさん達がこんなに一生懸命咲いてるんだもん、ちゃんと見てあげなくちゃ!」
「バラさん達って妙な呼び方だな…。」
そう言って満開のバラを労った井上は、そのまま大きく深呼吸。
俺もつられて深く息を吸い込めば、香水とは違う天然のバラの瑞々しい香りに満たされる。
「いい香り…。」
「…だな。」
そうか、だから井上は突然深呼吸したのか…なんて1人納得する俺の横、井上は1つ1つのバラをじっくりと見ながらバラの小径を歩き始めた。
「わぁ…このバラのピンク色、可愛いなぁ。あ、でもこっちの淡いピンク色も素敵!ねぇ見て黒崎くん、このバラの花弁、八重になってる!でも、こっちのシンプルなのもバラらしくていいなぁ…。」
そう呟きながら、1つ1つの花を愛しげに見ている井上について歩いていれば、ふと足を止めた井上が伺う様な目で俺を見上げた。
「…えっと…黒崎くん…あんまり興味ない?」
「まぁ…確かに綺麗だなとか、いい匂いだとかは思うけど、井上みたいにテンション上がったりはしねぇかな。男なんてみんなそんなモンだと思うけど。」
「そっか…ごめんね、付き合わせちゃって…。」
俺との温度差に気付き、申し訳無さそうにそう言う井上。
俺はうなだれる胡桃色の頭を、ぽすぽすっと軽く叩いた。
「いいんだよ。てか、面白いから。」
「へ?」
くりっとした瞳で不思議そうに俺を見上げる井上に、思わず小さく吹き出す俺。
「…何でもねぇ。」
…少し前。
学校帰りのデートで、俺とじゃ性格も好みも全部真逆だから、本当は自分と一緒にいても楽しくないんじゃないか…と言って、井上は不安がって泣いた。
…けれど、こうして一緒に過ごすと解る。
性格も好みも、違うから面白いんだ。
だって、花なんてまるで興味のない俺は、きっと1人なら満開のバラになんか気付かずに素通りしてた。
けれど、井上がいたからバラの花に気がついて、バラの花にまで友人みたいに接する井上の優しさに気がついた。
俺には全部一緒に見えるバラの一輪一輪に、それぞれの良さを見つける井上の視点には成る程と思わされるし、くるくると変わる井上の表情は面白い。
…そして、何より。
「ありがとう、黒崎くん!」
そう言って嬉しそうに笑う井上の極上の笑顔は、何度見たってきっと一生見飽きない。
花の良し悪しなんざ俺には多分ずっと判らねぇけど、井上が笑ってくれるならそれだけで俺も幸せな気分になれるから。
「黒崎くん、やっぱり優しいね。」
「あ?何だよ急に。」
「だって、花になんて興味ないのに、こうして付き合ってくれるから。」
「いいんだよ。来週は俺のサッカー観戦に付き合ってもらうからな。」
「うん!!望むところです!」
「いい加減、オフサイド覚えろよ。」
「うう…あれは難しいですなぁ…。」
井上と2人で、作り上げていくパズル。
ピースは、こうして一緒に過ごす何気ない時間達。
それをゆっくりと1つずつはめていけば、そこには。
きっと、俺1人じゃ決して見えなかった景色が、果てしなく鮮やかに広がっていく…そんな気がした。
「くうぅ、一護と井上さん、完全に2人の世界じゃないかぁぁ~!羨ましいぃぃ!」
「…てか、アタシたちも一緒に来てるってこと、完璧に忘れてない?」
「さすが、『井上さん溺愛評定10』の一護だね。絵に描いた様な『恋は盲目』ぶりだよ。」
「くそぉ!今頃一護のヤツ、井上さんに『バラよりオマエの笑顔の方が綺麗だぜ』とかなんとか言っちゃってんじゃないの!?畜生、身体が痒くなるぜぇぇ!」
「うるさいですよ、浅野さん。」
「…一護のヤツ、織姫の前だとやたら格好つけるし、あの雰囲気だと本当に言ってそうでイヤだわ…。」
(2015.05.17)
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