第3弾〜ラブラブな一織〜






僕の友人、一護に最近カノジョができた。
彼女の名前は井上さん。
学校ではアイドル的存在、才色兼備の四字熟語がぴったりな女の子だ。

けれど照れ屋な一護は、井上さんと付き合いだした後もクールで無愛想。

彼氏として井上さんをちゃんと大事にしているか心配だ…と有沢さんから相談された僕・小島水色は、今日1日一護を観察してみることにした。







《しょうがないね》








…2時間目。

「…ぷ。」

隣の席の一護が、突然小さく吹き出した。
僕がこっそり一護の顔を伺えば、ゆるゆるに緩みきった表情をしている。

そして次に、一護の視線の先を僕が辿れば、そこには井上さんの後ろ姿。

筆箱をひっくり返したり、きょろきょろと机の周りを見回したり。

…ああ、多分消しゴムを忘れたんだな。

再び僕が一護に視線を戻せば、一護はずっと井上さんを見つめたまま、彼女が可愛くて仕方ないって顔をしてて。

そして授業終了のチャイムが鳴ると同時に立ち上がった一護は、井上さんの席に行くとさり気なく消しゴムを手渡していた。
いや、さり気なくなんてないか、しっかり井上さんの手を握ってたから。

…て言うか、購買に行けば消しゴムぐらい売ってるんだけどな。

でも、一護は自分の消しゴムを井上さんに使って欲しいんだから、しょうがないね。





…昼休み。
普段は僕達と弁当を食べる一護が、週に一度だけ井上さんと2人で弁当を食べる日。

僕と啓吾がこっそり見ているとも知らず、一護と井上さんは楽しそうに昼食を取っている。

僕らが見守る中、井上さんがパンを食べるのを難しい顔でじっと見つめていた一護は、自分の弁当のブロッコリーを箸で摘まみ。

…そして。

「ああっ!一護が井上さんに『あーん』してるぅぅ!」
「うるさいですよ、浅野さん。」

その後も、ミニトマト、キュウリ…と野菜を井上さんに食べさせる一護。
まるで新婚さんみたいだ。

「ノオォ!何て羨ましい…!」
「だからうるさいですよ、浅野さん。」

啓吾の言うことは最もなんだけど、それに一護が気がついてないんだから、しょうがないね。






…6時間目。

体育の時間、男子はバスケの試合。
僕と一護のチームはしばらく試合も審判係もなくて、だらだらお喋りしながらぼーっと試合観戦をしていた。

「…井上!」
「へ?」

なのに突然、井上さんの名前を口走る一護。
僕が隣を見上げれば、一護は深刻な顔で、目の前の試合ではなく、そのずっと先を凝視している。

「…井上さん?」

僕が体育館の前半分をよくよく見れば、バレーボールの試合中だった女子が何やら騒がしい。
そして騒ぎの中心、コートの真ん中でうずくまっている胡桃色。

「…行ってくる。」
「は?一護!?」

そう短く言い切ると、僕を振り返りもせず女子の一団へと走っていく一護。
そして、先生もそっちのけで井上さんの足の具合を見ると、まさかのお姫様だっこで井上さんを抱き上げた。

そのまま井上さんを連れて保健室へと去っていく一護に、しばらく皆で唖然として。
一護達の姿がすっかり見えなくなった頃、今度は体育館が爆発したように騒然となった。

…でもまぁ、一護は井上さんの足のことしか考えてなかったんだろうから、しょうがないね。






…下校時間。

井上さんの荷物を素早く鞄に詰め込んだ一護が、黙って教室を出て行ったのが30分前。
今、運動場には井上さんをおんぶした一護が歩いている。

確かに、あの足じゃ井上さんが自力で帰るのは難しいだろうし、お迎えを頼める保護者が彼女にはいないからね。

…けど、なんでかな。
大変どころか、夕日に照らされた2人の後ろ姿が、とっても幸せそうに見えるんだ。

「くそおぉ!いいなぁ一護!今頃一護の背中には井上さんの特盛が『むにゅ』って…!」
「うるさいですよ、浅野さん。」

僕は夕日の向こうに消えていく二人を見送りながら、今日の観察結果を有沢さんに伝えるべく、鞄からルーズリーフを取り出した。











「はい、有沢さん。」

…翌日。
僕は昨日書いたルーズリーフを有沢さんに手渡した。有沢さんはそのルーズリーフに目を走らせながら、満足そうに頷く。

「…まぁ、昨日の体育館での様子で、アタシの取り越し苦労だったかなって気付いたけどね。」
「…で、これどうしようか?」

ルーズリーフを指差し僕がそう尋ねれば、有沢さんはニッと笑って。

「当然、今から一護に見せるでしょ!」

そう、僕が期待した通りの返事をくれた。




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《一護の井上さんへの愛情評価(5段階評定)》

・愛情ダダ漏れ度…5
 井上さんへの愛情が顔や態度に大変分かりやすく出ています。

・世話好き度…5
 「あーん」で食べさせたり、お姫様だっこやおんぶをしたり、過保護傾向です。

・井上さん注目度…5
 授業中も、友人とお喋りの最中も、常に井上さんを気にしています。

・恋は盲目度…5
 自分達が無意識にイチャイチャしていることにまるで気付いていません。

・総合…5段階評定中 10
 大変よく溺愛できました!
 5段階ではとても評価しきれませんので、特別に最高評価として10の評定を付けました!



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「あ!一護、井上さん!」
「おはよう!一護、織姫!」
「おはよう!たつきちゃん、小島くん!」
「うっす。2人共何だよ、朝からニヤニヤして…。」





(2015.03.23)
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