第3弾〜ラブラブな一織〜





黒崎くんは、私の大好きな自慢の彼氏さんです。

でも、彼のことをよく知らないクラスメートから、時々言われるの。

「黒崎くんって怖くない?」「何だか冷たそう。」って。

だから、私はいつも全力で左右に首を振ってみせる。

…だって、あんなに強くて優しくてカッコよくて楽しい人を、私は他に知らない。









《しょーがねぇな》









…2時間目。
英語の授業の終わりを告げる鐘。
挨拶した後、一斉に散らばるクラスメート達。

「井上。」
「ほえ?」

名前を呼ばれた私が隣を見上げれば、私の席の横に黒崎くんが立っていた。

「なぁに?」
「…オマエ、今日消しゴム忘れただろ?」

そう言って私のノートを覗く黒崎くんと、慌ててノートに覆い被さる私。

だって、私のノートはあちこち間違えた部分を無理やり直したり、二本線で訂正したりと、見苦しいことこの上なく。

「…な、なんで分かったの?」
「だってオマエ授業中、突然筆箱漁りだして、その後わたわたしだしてさ。後ろから見ててすっげえ面白かった。」
「…うう…。」

くつくつと笑う黒崎くんに、私が顔を赤くすれば。

「しょーがねぇな。」
「え?」

ズボンのポケットから出てきた黒崎くんの手からコロリと落ちてきたのは、真新しい消しゴム。

「…貸してやる。俺消しゴム2つ持ってるから。」
「え?でもこれ新品…!」「いいんだよ。せっかく貸してやるんだ、ちゃんと使えよ?」

そう念を押すように言った黒崎くんは、消しゴムを包んでいるビニールをピッと剥がして。
消しゴムを私の掌に乗せて、私の手を黒崎くんの手がギュッと包む様にして持たせてくれて。
「じゃあ、コーヒー買ってくるから」と言い残してそのまま行ってしまった。





…お昼休み。
今日は週に1回、黒崎くんと2人でお昼ご飯を食べる日。

青空の下、黒崎くんと屋上で食べるお昼ご飯は格別。
幸せだなぁって思いながら、私がメロンパンを頬張っていれば。

「井上。」
「ほえ?」

ツンツンと私の脇腹をつつく箸の感覚。
隣を見れば、黒崎くんが私のメロンパンをじっと見つめていた。

「はっ!黒崎くん、もしかしてこのメロンパンが欲しかったですか!?」
「違ぇよ。ただ…オマエ、今日も昼はバイト先の廃棄パンだけなのか?」
「廃棄じゃないもん、売れ残り!」

私がぷぅっと頬を膨らませれば、やっぱり黒崎くんはくつくつと笑って。

「しょーがねぇな。ほれ。」
「え?」

黒崎くんは自分の弁当箱からブロッコリーを箸で摘まんで私の目の前に差し出した。

「野菜も食わないと、身体に悪いだろ?…口開けろ。」
「ほえ?」
「だってオマエ、箸持ってねぇだろ?ほら。」

そうして私が言われるままに口を開ければ、ポイッと放り込まれるブロッコリー。
「むぐ…。」
「ったく。栄養偏りすぎなんだよ、井上は。」

黒崎くんはそう言って、ミニトマトとキュウリのスライスも私に食べさせてくれた。





…6時間目。
今日最後の授業は体育。

女子はバレーボールの試合。

「織姫、いくよ!」
「はぁい!」

たつきちゃんが上げてくれたトスに合わせて、アタック!
…でも。

「きゃっ…!」
「痛っ…!」

アタックは決まったものの、ブロックに飛んだ友達とネット越しに激突。
着地の時、足首で嫌な音がした。

「…いったたた…。」
「織姫、大丈夫!?」
「ご、ごめんね井上さん!」
「あはは、全然大丈夫だよ!ほら……痛っ!」

謝る友達やたつきちゃんに笑顔を見せつつ立ち上がれば、ズキンっと足首に痛みが走る。

「全然大丈夫じゃないじゃない!」
「あ、あはは…。」

心配してくれるたつきちゃんに、痛みを堪えて笑い返せば。

「井上。」
「ほえ?」

声のする方を見上げれば、そこにはまさかの黒崎くん。

「え、黒崎くんどうしたの?」
「どうしたって…オマエこそ、今足首を痛めたんだろ。いいんだよ、俺のチームはしばらく試合ねぇから。」

黒崎くんの肩越しに見える体育館の後ろ半分では、男子がバスケの試合中。

「…ったく、しょーがねぇな。」
黒崎くんはそう言って、突然私をガバッと抱き上げた。

「え、えええっ!?」
「保健室まで連れてってやる。」
「で、でもっ!」
「これでも医者の息子だからな。手当ても簡単にならしてやれるから。」

そう言って黒崎くんは、唖然とするクラスメート達をよそに、私を保健室まで連れて行ってくれた。





…帰り道。

「…ありがとう、黒崎くん…。」

私は今、黒崎くんのおんぶで家に向かっている。

本当は六花でこっそり治しちゃおうと思ってたけど、ケガの現場を大勢が見ていたから、突然治ったら不自然だろって黒崎くんに言われて。
「しょーがねぇな、家までおぶってやるよ」って言ってくれた黒崎くんのお言葉に甘えて、私は彼の背中に揺られている。

大好きな人の、広くてあったかい背中。
足の痛みなんて、もうどうでもよくて。

「…あのさ、井上。」
「なぁに?」
「言っとくけど、俺、四六時中オマエばっか見てる訳じゃねぇからな。」
「…え?どういう事?」
「…いや、その、何でもねぇ…墓穴だった…。」
「ほえ?」



ねぇ、黒崎くん。

私今、あの夕日に向かって、叫びたい気分だよ。

神様、こんなに強くて優しくてカッコよくて楽しい人を私の恋人にしてくれて、本当に本当にありがとうございます…って。




「ねぇ、黒崎くん。お礼に我が家でコーヒーでもいかがですか?」
「しょーがねぇな。寄ってってやるよ。」



(2015.03.23)
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