第2弾〜両想いな一織〜






…その日の俺は、朝から最悪だった。

朝っぱらからクソ親父の絡みはいつも以上にウザく、登校中にはどこぞの不良にまで因縁をつけられ。
昼食時間を狙ったように現れた虚のせいで飯を食いっぱぐれ、なのに直後の体育は長距離マラソンだった。




…その日の私は、朝からついてなかった。

朝、洗濯物をベランダから飛ばしちゃって、やっと拾って帰ってきたらトーストは黒こげ。
学校へ来たら、やった筈の予習ノートを家に忘れてきたことに気付いて、なのにそういう日に限って授業中に指名されて。



…そして、更に。




「おーい、黒崎、井上!授業後居残りしていけよ~!授業サボってばかりのお前らに、アタシから大量プリントのプレゼントだ!」






《初めての…》






「はぁ…ついてねぇの。しかも俺の方がプリント多くね?」
「あはは…本当だねぇ。」

夕日の差し込む教室で2人、机を並べてプリントに取り組む。
…否、プリントに取り組んでいるのは俺だけ。
とっくにプリントを片付けた井上は、「ついでによろしくな」と越智さんから渡された資料をパチンパチンとホッチキスで留めている。

「しかも井上にこんな雑用まで押し付けやがって…。」「でも仕方ないよ。授業サボりがちなのは事実だもん。」

実は、最近井上と付き合い始めた俺。
本当なら、今日はバイトが休みの井上を初めて放課後デートに誘う予定だったのに…。

本当、ついてねぇ…。










「…うし!プリント終わったぜ!」
「よ~し!私もこれで終わり~!…って、あれ?」

黒崎くんの声と一緒に、私も最後の一組をパチンとホッチキスで留めて。
解放感と共にそう叫んだ私が万歳をすれば、カーディガンの袖口にぴらりとついてくるプリント。

「あ…あれれ?」
「井上…お前まさか、カーディガンごと留めちまった?」
「えええっ?やだ、嘘っ!」

呆れた様にそう言う黒崎くんの指摘通り、プリントを貫通して私のカーディガンにまでしっかり食い込んだホッチキスの針。

やだ…これで帰れると思ったのに。
うう…本当に、今日はついてないっす…。

「ちょっと待ってろ、俺が取ってやるから。」
「だ、大丈夫だよ?自分で何とか…。」
「動くなって。自分じゃやりにくいだろ。カーディガン破れたらショックデカいだろうし。」

…確かに。
こんなついてない日には、カーディガンが破れたって全然おかしくない。
そうなったらもう目も当てられないや…。
私が大人しく黒崎くんに甘えることにすれば、黒崎くんは私の手首を掴んで、大きな手で小さなホッチキスの針をもどかしそうに開いていく。

「ちょっ…井上、もっとこっち来い。服が突っ張る。」
「あ、うん…。」
「何だこれ、布地の目までガッツリ食い込んで…。」
「ご、ごめんね黒崎くん…!」











今日は、朝から本当についてない日だった。
現に今も、こんな状況で。


…けれど。











ちゅ











「「…え…?」」











井上の袖口ギリギリまで顔を寄せていた俺。

黒崎くんに申し訳なくて、思わず顔を上げた私。

想像以上の、至近距離。


…唇と唇が、触れた。











「「………っ!」」










ガタンッと椅子ごと後退りして、足を机に強打する俺。

ガタリッと椅子から立ち上がって、その拍子にプリントを盛大に破ってしまった私。

…けど、けれど。



「「…あ…。」」



今日1日、ツイてなかったことなんて、一瞬で綺麗に全部吹っ飛んだ。

だって、今。


「…そ、その…。」
「…あ、うん…。」

黒崎くんが、大きな手で真っ赤な顔の口元を覆ってる。
井上が、破れたプリントをぶら下げた手で、真っ赤な両頬を包んでる。

それは、つまり。
あの一瞬の感覚は、気のせいなんかじゃなくて。

…初めて、の。

「…い、井上…。」
「…く、黒崎くんっ…。」

とりあえず、椅子ごと元の場所に戻って。

とりあえず、椅子にすとんと座って。

「「……。」」

無言で向き合いながら、「今日はツイてない」なんて、気のせいだったかも…なんて、思ってみる。


「あのさ、井上…。」
「う、うん…。」


机にぶつけた足の痛みなんて、欠片も感じない。

プリントを破いちゃったことなんて、もうどうでもいい。



…ただ、心臓だけが、爆発しそうに五月蝿い。



「せっかくだし…その…もう一回、ちゃんとしてみる…か?」
「…うん…。」






…ああ、一瞬唇が掠めただけで、今日のイヤなこと全部吹っ飛ばすぐらい強烈なのに。

もっと長く唇を重ねたら、どうなるのかな…なんて。

頭の片隅でちらりと考えながら、身体の震えを押し隠して、そっと瞳を閉じた。




《初めてのkiss》




(2014.09.17)











《オマケ》





「失礼します!」
「失礼しま~す。」
「お!黒崎に井上!アタシの愛のこもったプリント達は終わったか?」
「まぁ…一応終わったっす。」
「越智先生、あとこれ、頼まれていたプリントです。」
「おお!助かったよ、井上!」
「それで…その…すみません。実は、一枚プリントを破いてしまって…。」
「ああ、いいよ。もともと2枚余分に印刷してあったんだから……………。」
「何すか?」
「黒崎、井上…お前たち、居残りさせられた割には、やけに嬉しそうな顔をしてないか?」
「………っ!?///」
「え、ええっ!?べ、べべ別にそんなことは…!///」
「じ、じゃあ俺達帰るんで!」
「あの、失礼しました!」
「おーう、気をつけて帰れよ~!」











「…ついにデキたな、あの2人。」





(そして、瞬く間に職員室に広がる熱愛発覚のニュース)

(2015.02.17)
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