短い話のお部屋





《sweets vs Ichigo》




「あーーん。」

ぱくっと音がしそうなほど、それは見事な食べっぷりで、織姫は手に持っていたチョコパイにかぶりついた。

「…本っ当にうまそうに食うよな、井上は。」

一護が頬杖をついているテーブルには、様々なお菓子がところ狭しと並べられている。

学校帰りに、織姫の夕飯の食材を調達しようと二人で寄ったスーパーで見つけた、賞味期限間近のお菓子の特売袋。

一護が声をかけるより早く、織姫はそれを買い物かごに入れていた。


…そして、今に至る。

満面の笑顔で次々とお菓子を細いお腹へと収めていく織姫。

どうせ今日中に食べてしまうのだから、賞味期限なんて問題にならない訳で。

一護は、織姫の胃袋がブラックホールかバミューダ海峡にでも繋がっているのではないかとぼんやり思いながら、次々と消えていくお菓子達を見送っていた。

そして、ふと芽生えた悪戯心。

「…なあ、井上。」
「なあに?黒崎くん…あ!もしかして、黒崎くんも欲しかった?」

織姫が手にしているマシュマロを一護に差し出す。

「いや、そうじゃなくてさ。」

このあと、遊子の作った夕飯が控えている一護は、やんわりと断りながら、少し意地悪く笑って。

「…もし、『お菓子と俺、どっちか』って言われたら、どっちを取る?」

…そう、問いかけた。

織姫は、大きな瞳をぱちくりとさせた。そして、一護とテーブルのお菓子を幾度も交互に見比べる。
そして真剣に悩みながら、一言。

「む、難しい選択ですなあ…。」

…そう、呟いた。

一護は、「勿論、黒崎くんだよ!」と言ってもらえなかったことに、内心がっくりと肩を落とし、つまらない質問をしたことを後悔した。

そんな一護の心の内に気づくことはなく、織姫はうーんと唸ってますます悩んでいる。

「だって、お菓子と黒崎くんって、そっくりなんだもん。」
「…はい?」

出ました、井上評価基準。

一護はテーブルにあるお菓子とにらみあった。

…どいつと俺が似てるんだ?

ポテチの袋に描かれている、じゃがいも野郎か?
さっきのチョコパイについてた、天使か?それとも、そこのチョコボールについてる怪しい鳥か?

…毎度毎度、織姫のぶっ飛び思考に付き合っている内に、一護の思考も壊れ気味。

しかし、織姫はみるみる顔を赤くし、恥ずかしそうに手近にあったクッションで顔を隠した。

「何だよ?俺とお菓子のどこが似てるのか、ちゃんと言えよ。」

何言ったって驚かねぇから、と心の中で付け足すと、一護は織姫の顔を除き込んで、視線で逃げ道を塞ぐ。
織姫はあう、と小さく鳴くと、「笑わないでね?」と念を押し、観念したように口を開いた。

「あ、あのね。お菓子も、黒崎くんも、ね。さっき会ったばかりなのに、またすぐ会いたくなっちゃうの。」
「…は?あ、ああ、そう言う意味か…。」
「あとね、一目見ただけで、きゅんってしたり、ドキドキしたり、わあって思っちゃうとこも一緒なの。」
「…お、おう。…で?」
「それでね、どっちも、一緒にいるだけで、幸せになっちゃうの。ずっとずっと一緒ならいいのに、って思っちゃうの。」

織姫の告白を聞いている内に、一護もまただんだんと赤みを帯びていく。

「あ、あとね…。」
「わ、分かった、もういいから。」

一護は織姫をクッションごと腕の中にぎゅっと収めて、言葉の続きを阻止した。

心の中で完敗の白旗を振る一護。「こういうのこそ反則だろう」と思うのだが、いかんせん織姫側にその自覚は皆無なわけで。

「私も、明太子やチョコレートに似てるかなあ…。」

織姫はと言えば、一護の腕の中に収まったまま、今度は自分が一護の好物とそっくりになりたいらしく。

「…あのな、井上。」
「は、はい?わ、私明太子とチョコレートに似てるかな?…んっ!」

呼ばれたままに顔を上げた織姫の唇に降ってくるのは、一護のそれ。
軽く触れたあと、織姫を再び腕の中に閉じ込めた。

「…俺は、明太子よりチョコレートより、迷わずオマエを選ぶから。似てなくていいんだよ。」

一護の反撃に、彼の腕の中で耳まで真っ赤になっている織姫。

そんな織姫を見下ろしながら、赤さは明太子に、甘さはチョコレートに似てるかもな…と内心思った一護であった。



(2012.9.20)
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