短い話のお部屋





《二人だけの秘密・保健室編》




※屋上編同様、オトナネタが入ります。苦手な方はUターン。


キーンコーン…。
キーンコーン…。

昼食の時間を知らせるチャイム。

授業から解放された生徒達が、思い思いの場所へと散らばっていく。

「いっちごぉ~、ランチしようぜ…あれ?」

弁当包みを片手に、啓吾はいつものように一護を誘おうと教室を見回したが、オレンジの頭は見当たらなかった。

「そう言えば、織姫もいないや。」

たつきもキョロキョロと辺りを見回している。

「…さっき、理科室から戻るときに、二人で一緒に南校舎の方へ歩いて行ったよ。」

二人の呟きを拾った水色が、いつものようにケータイ片手にそう言った。

「よく見てるわね、アンタ…。」

たつきは感心したように、ため息を漏らす。

「南校舎ってことは…保健室か?はっ、一護のヤツ、こんな昼間から井上さんを保健室に連れ込んで…ぐはっ!」

言い終わらないうちに、たつきの拳が啓吾の鳩尾に入った。

「また、アンタはすぐそういうことを…!」
「だってだって、一護ビンビンに元気だったのに、保健室に行く理由がないじゃんか!」

たしかに、啓吾にも一理あった。
一護が体調不良なら、保健委員の織姫に付き添われて保健室というのも理解できる。しかし、今日の一護はどう見ても具合の悪い病人には見えなかった。

「元気ビンビンな男子が保健室に彼女と行く理由なんて…ぐぉっ!」
「…だから、何でそうなるの!」

再びたつきの拳を腹に受ける啓吾。うずくまって痛みに耐える彼の背中をちょんとつつき、水色がにっこりと微笑んだ。

「…じゃあさ、見に行こうよ、保健室♪」




かくして、三人は保健室の扉の前にいた。たつきが扉に手をかけようとすると、啓吾が慌てて止めに入る。

「何よ?」
「しーっ!…いや、もし、アレだったら邪魔しちゃ悪いし…ぶほっ!」

たつきの三度目の鉄拳に、声を殺して悶える啓吾の横で、水色はガラスに姿が映らぬよう屈むとそっと扉に耳を寄せた。

「…く、黒崎くん…。痛く、ない?」

その声の主は、間違いなく胡桃色の彼女。

「…いるよ、二人。」

水色のその声に弾かれたように、たつきと啓吾も扉に耳を張り付けた。

「大丈夫だって。そりゃ、ちょっとは痛いかも知れねぇけど…じゃ、止めるか?」
「やだ、やめちゃ嫌っ…。」

震える織姫の声は、あまりにもか弱い。

「…だろ?井上は俺を信じてりゃ、いいんだよ…。ほら、んな身体ガチガチにしなくていいから、力抜いとけ。」
「うん、あの、優しく…してね…。」


全神経を耳に集中し、大きく目を見開いたまま動くこともできず見つめあうたつきと啓吾。


たつきは、織姫の息を飲むような音が微かに聞こえた気がした。



そして、数秒後。



「…ほら、取れた。痛くなんかなかっただろ。」
「わあ、さすが黒崎くん!トゲぬきも上手だねぇ!」



ドサッ!


一護と織姫が扉の向こうで鈍い音がしたことに気付き、扉をガラリと開けると、そこには。


…崩れ落ちた、啓吾とたつきがいた。

「オマエら、こんなところで何やってんだ?」

不思議そうな顔をする一護の後ろから、織姫もひょっこりと顔を出す。

「あれ、たつきちゃん?どうしたの?」
「二人が突然居なくなったからさ、心配したんだよ。」

崩れ落ちた二人の後ろで、さらりとそう言う水色。

「あ?ああ、井上が座ってた理科室の椅子がボロくてよ。指にトゲが刺さったって言うから…右手だったし、自分じゃ抜きにくいだろうと思ってよ。別にわざわざ報告するほどでもねぇだろ。」
「ご、ごめんね、たつきちゃん。もしかして心配かけちゃった?」

ようやく起き上がったたつきに、申し訳なさそうに織姫が謝った。

「いえいえ、井上さん、僕たちは別のイミで心配を…はぐうっ!」
「うるさい、浅野。」

気まずさを隠すような、本日四度目のたつきの右拳、命中。

「…さ、面白かったし、お昼御飯にしようよ。お腹すいちゃったし。」

一護と織姫は頭にハテナマークをいくつも浮かべながらも、とりあえず水色のその提案に乗ったのだった…。


そして今日も、1日平和でありましたとさ。




(2012.9.18)
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