短い話のお部屋






「ぼく、今日お誕生日なんだ。」

ぼくがそう言えば、さっきまで「はよ帰れ」って言ってたひよりちゃんは目を丸くして、頭をガシガシとかいた。

「あ~…なんや、そっか。おめでとうな、一勇。しゃあない、今日はお祝い代わりに遊んだるわ。何がしたいんや?」

あれ?
いつもは「仕事が忙しい」とか言って、かくれんぼと鬼ごっこしかしてくれないひよりちゃんが、今日はぼくと何でも遊んでくれるみたい。

何で?

「このあと、浦原喜助んとこにも行くとええで。誕生日プレゼント、くれるやろうから。」





《お誕生日はすてきな日》





「ぼく、今日お誕生日なんだ。」
「おやおや、おめでとうございます!そう言えば今日でしたね。では…はい、こちらの『どこでも修業ドア』をプレゼントしますよ。」

僕が浦原さんのところへ行ったら、ひよりちゃんが言った通り、本当にプレゼントがもらえた。

「わぁ、ありがとう浦原さん!」
「このドアを開けて入ると、ウチの修業場に繋がってるッスよ。」
「すごーい!いつでも瞬歩や卍解の練習ができちゃうね!」
「今から門を開けますから、良かったら尸魂界にも行ってらっしゃいな。皆さんきっと、お祝いしてくれますよ。」









「ぼく、今日お誕生日なんだ。」
「おやおや、いらっしゃい。おめでとう。尸魂界を救ってくれた英雄の息子の誕生日だ、この羽織をあげよう。」
「隊長、そんなものいつのまに…。」
「いいだろ、七緒ちゃん。彼の背丈に合わせた特注品だ。」
「ありがとう、総隊長さん!」





「ぼく、今日お誕生日なんだ。」
「へぇ、そうか。めでてぇな。じゃあこの肉の塊をくれてやる。沢山食って早く大きくなれ!そしたら俺とやり合おうぜ!」
「ありがとう、剣八さん!」




「ぼく、今日お誕生日なんだ。」
「ほぉ、そうか。それはめでたいな。よし、わしを好きなだけ撫でてよいぞ。」
「わぁ~!ありがとう、夜一さん!ふわふわで気持ちいい~!」





「ぼく、今日お誕生日なんだ。」
「あら、そうなの?おめでと、1つ大人になったわけね。うふふ、じゃあこのお酒をあげるわ。今から寝かせておけば、一勇が大人になる頃に美味しくなってる筈よ。」
「ありがとう、乱菊さん!」




いいな、いいな。

誕生日ってすてきだな。

みんなみんな、「おめでとう」って言ってくれる。

みんなみんな、プレゼントをくれる。

みんなみんな、にこにこの笑顔だ。

これから毎日、誕生日だったらいいのに。

ぼく、明日も明後日もお誕生日がいいな。




「…それは無理だな、一勇。」

ルキアさんは、困ったように笑った。

「そうなの?」
「ああ。誕生日は一年に一度…一勇なら4月29日だけだ。」
「どうして?」
「それはな…。」

ルキアさんは「誕生日プレゼントに」って沢山の白玉だんごをぼくに渡しながら、優しい笑顔でお話してくれた。







「ただいま~!」
「おかえり、かずくん!」
「ちょうどいいタイミングで帰ってきたな、一勇!」

ぼくが家に帰ったら、お母さんとお父さんがにこにこの笑顔で迎えてくれた。

「ほら、来て来てかずくん!」
「わぁ…!すごーい!」

いつものお部屋がキラキラに飾り付けされていて、テーブルにはおっきなケーキ。

「一勇の誕生日パーティーの準備ができたところだ。もうすぐ石田やチャド達も来てくれるってさ。さぁ、手洗ってこいよ。」
「はぁい!でも、先にね…。」

ぼくは返事をしたあと、くるっと向きを変えて、お父さんとお母さんにぎゅう~ってした。

「お父さん、お母さん、僕を生まれてくれてありがとう!」
「一勇、それを言うなら『生んでくれてありがとう』だな。ちなみに生んだのはお母さんだけどな。」
「ふふふ、こちらこそ、生まれてきてくれてありがとう、かずくん!大好きだよ!」



いいな、いいな。

お誕生日ってすてきだな。

だって、ぼくが生まれてきた日。

ぼくはきっと、ずっとお空で待ってたから。

誕生日って、ぼくが大好きなお父さんとお母さんのところに生まれてきた、すてきなすてきな日なんだって、ルキアさんが教えてくれたよ。






「…椿鬼達、御苦労様だったな。すげぇ荷物じゃねぇか、それ…。」
「ぜぇ…ぜぇ…死神はバカばっかかよ!あいつら、揃いも揃ってデカイ贈り物ばかりしやがって…!幼児に持たせる大きさじゃねぇだろ!死ぬかと思ったぜ!」
「あはは、ありがとう、六花のみんな。」




(2021.04.29)
52/68ページ
スキ