短い話のお部屋
《二人だけの秘密・屋上編》
※ちょっとオトナ向けネタが入ります。苦手な方はUターンして下さいませ。
「あれ?織姫は?」
教室をぐるりと見渡して、たつきがそういつものメンバーに問いかけた。
「そう言えば、一護もいないじゃん!きゃーっ、何処かで逢い引きでもしてるんじゃ…!」
「おのれ黒崎、あたしのヒメの純潔を奪おうなんて…!」
「うるさい。」
たつきの右拳は啓吾の、左拳は千鶴の頭に落下した。
あまりの衝撃にしゃがみこんで頭を抱える二人。
それを完全に無視してケータイを弄っていた水色が、ふと顔を上げた。
「二人なら多分、屋上だよ。」
「こんな中途半端な休み時間に?」
昼休みならともかく、今の休み時間は15分程度。教室移動や授業の準備をする時間を考慮すれば、屋上に行くほどの余裕はない。
「…最近、多いんだよね。僕たちに何も言わず、二人でこそっと抜けて行くんだ。」
それでも二人の行き先を把握しているのは、さすが水色といったところか。「…じゃあ、ちょっと顔出してこようかな。あたし、次の授業で当たりそうだから、織姫の予習ノート見せて欲しいんだよね。」
「そうよ、そして黒崎の魔の手から織姫を救って…ぐはっ!」
「だから、うるさい。」
突っ込みと同時に千鶴に再び鉄拳が落ちる。
たつきはそのまま、教室を後にした。
屋上までの階段を登りながら、たつきは有り得ないと思いながらも一抹の不安に襲われていた。
あの一護と、あの織姫の超天然奥手カップルが、まさか屋上で…いやいや、有り得ない。
けれど、一護だって男な訳で。織姫のあの誰もが羨む魅惑的な身体を前に、気の迷いを起こさないとも限らない。
でも、二人は付き合っているんだし、織姫が良ければ止める理由もないのか?
「…ああっ!もう、だから有り得ないってば!」
たつきは、混乱した思考を断ち切るように、頭をぶるっとふった。
気がつけば、目の前には屋上への扉。
力一杯そのドアを開ければ良いものを、たつきは何となく気が引けて、それは静かに静かに、扉のノブを回した。…僅かに開いた隙間から、日差しが差し込む。
それと共に、聞こえてくるのは、確かに見知った二人の声。
「ん…黒崎くん…。」
「ここが、いいのか?」
子猫のような甘い声を漏らしているのは、間違いなく織姫。
「ん、気持ちいいっ…。」
「…最近、分かってきたんだよな、井上のイイところが…。」
「く、黒崎くん、上手なんだもん。」
二人のやり取りを扉の隙間から聞いていたたつきは、さぁっと血の気が引いたのが分かった。
ど、どうしよう…!
このまま、何も聞かなかったことにして帰るか。しかし…。
「あ、黒崎くん、もう少し優しくしてぇっ…。」
織姫の、あまりに艶やかすぎるその声に。
「やっぱり、だめー!!!」
たつきは、勢いに任せて思い切りドアを開けた。
…そこには。
ちょこんと座った織姫と、その後ろで彼女の細い両肩に手をかけたまま、唖然としてこちらを見ている一護がいた。
「…た、たつきちゃん?」
予想外の光景に、たつきもまた固まっていた。
「な、何だ?たつき…。」
一護の呆気にとられた呟きに、たつきははっと我に帰って。
「な、何してるの?あんたたち…。」
たつきのその言葉に、一護もはっとして織姫の両肩からぱっと手を外した。
「えっと…じ、実は、黒崎くんに肩を揉んでもらっていて…。」
ぽぽぽっ、と赤くなりながら、もじもじと織姫が答えた。
「か、肩もみ~?!」
身体から力が抜けて、たつきはヘナヘナとその場に座り込んだ。
「いや、最近井上が肩こりが酷いっつーからよ…けど、手芸部の作品作りは締め切りがあって止められないっていうし…。」
照れくさそうに明後日の方を見て頭をガリガリとかきながら、そう言う一護。
「ま、紛らわしい…そんなこと、教室でやりなさいよ!」
「バッ、バカヤロー!人前でそんな恥ずかしいこと出来るか!」
「た、たつきちゃん、黒崎くん、喧嘩しないで~。」
…かくして今日も平和な1日でありましたとさ。
(2012.9.17)