短い話のお部屋







パンパン!

一礼、ニ拍手。
賽銭を、うんと弾んで。
一際大きく、鈴を鳴らす。

元旦の空は、どこまでも澄み、晴れ渡っていた。






《1/1・初詣》






「…一護くん、長いことお参りしてたね。」
「織姫こそ。」

お参りを終え、織姫と手を繋ぎながら、玉砂利を踏みしめるようにゆっくりと歩く。

辺りを見回せば、おみくじを引く人、甘酒を飲む人、御守りや破魔矢を買う人…どの人も皆、これから訪れる幸せに期待を寄せ、もう既に幸せそうに笑っている。

「おみくじ、引くか?」
「うーん…。凶とか引いたら、ショックだからなぁ…。」
「やめとくか。御守りは、俺が買う。」
「うん。ありがとう。」

ふわりと、俺を見上げて織姫が笑う。
こんなことを言うと、ダンナの欲目だ…なんて笑われそうだけど。

本当に、日ごと綺麗になっていく、俺の嫁さん。

「…あ、一護くん、見て。」
「ん?」

嫁さんが指差す先には、沢山の絵馬。

それを指差す織姫の言いたいことが、俺にもすぐに解った。

「今年は書こうぜ。」
「ありがとう、一護くん。」
「だって、出来ることは全部したいもんな。絵馬を書くなんて、大学受験の時以来だなぁ。」

早速絵馬を購入し、織姫の手を引いてペンのある台へとゆっくり急ぐ。

書くことは、もう決まってる。
さっき、神様にお願いしたことと、同じだから。

そして、俺のそれは多分間違いなく、織姫と同じだから。

「…あ。」
「どうした?」
「これ見て、一護くん…。」
「…あ。」

ペンを片手に、ふと視線を上げた織姫の視線の先。
既に願い事が書かれた沢山の絵馬が飾られている中に見つける、見覚えのある文字達。



『一護と織姫の赤ちゃんが、無事産まれますように!』
『織姫ちゃんが、母子ともに健康で出産できますように!』
『早く「じぃじ」と呼んでもらえますように!』
『井上が無事に出産しますように。ついでに、生まれてくる井上の子供が一護に似ていませんように』



「…みんな…。」

織姫が、感極まったように口元を覆う。

「これは、たつきちゃんの字だね。こっちは、遊子ちゃんと夏梨ちゃんだ…。」
「この、やたら達筆な筆文字はルキアか?いつの間にこっちに来たんだよ。織姫はとっくに『井上』じゃねぇよ。あと、『ついでに』から先が余計だ。」
「ふふ、あたしは一護くんに似た子がいいなぁ。男の子みたいだし。」

織姫が、ふっくらと膨らんだお腹を嬉しそうに撫でる。

神様に失礼のないようにって勉強してきた参拝作法も、奮発した賽銭も、御守りも、全部全部。
…このお腹で眠る、新しい命の為。

「…あたし達幸せだね、一護くん。」
「ああ。」
「この子が生まれてきたら、もっともっと幸せな気持ちになるんだろうね。」
「ああ。正直、まだ実感がわかねぇけどな。」
「楽しみだね。」
「ああ…きっと、今年は今まででいちばん思い出深い1年になるぜ。」
「うん。」

織姫が、左手を俺と繋いだまま、右手のペンで絵馬に願い事をゆっくりと書き付ける。

それを、俺がみんなの絵馬が飾られている傍にくくりつけた。

『一勇、パパとママのところに、元気に生まれてきてね!黒崎一護・織姫』

きっと、その小さな手に、とびきりの幸せを握りしめて。

4ヶ月後には、俺達の腕の中に…。





(2019.01.01)
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