短い話のお部屋






《続々・2月22日》





「いやぁ、今年もあっさりと引っかかっていただいて、ありがとうございまス!」
「ニャニャー!」
「だって今日は2月22日、ネコの日なんでショ?つまり、皆さんでネコになる日…って、この解説も3年目っスね!」

…ああ、我ながら浅はか過ぎたぜ…そんな後悔も反省も、既に時遅し。

今年もまた、浦原さんの怪しい薬によってネコに変えられちまった俺と…。

「にゃぁ!」

井上。

「いいじゃないっスか!今日はいい天気ですよ。せっかく揃ってネコになったんですし、お二人で仲良くデートしてきてくださいなっと!」
「ニャ!」
「にぁぁ~!」

…そして例によって、浦原商店から放り出されたのだった…。












「にぁぁ、に~!」
「ニャニャー。」

浦原さんの言う通り、腹が立つほどにいい天気。

俺と井上は、しっぽをふりふりいつもの道を並んで歩いた。

「ニャ、ニャニャ…。(ったく、浦原さんめ)」
「にー、みゅうん。(ねぇ、困ったねぇ)」

不幸中の幸いだったのは、今年の薬は服が残らなかった…つまり、人間に戻った時に裸にならずに済むこと。
そして、ネコになった井上と、ネコ語で会話が通じることだ。

「ニャニャ…。(元の姿に戻るには、去年とも一昨年とも違う方法を見つけねぇといけないんだろうな、きっと)」
「に、にぃ。(う、うん)」
「ニャーニャ?(とりあえず、どうする?)」
「みぃ、み~ぃ?(焦っても仕方ないし、ネコらしく公園にお散歩にでも行きませんか?)」
「ニ…。(了解)」

ネコ化事件も3年目となると、我ながら「多分、どうにかなるだろう」なんて楽観的になれるらしい。
俺と井上はネコの姿のまま、公園へと向かうことにした。











「みゃあぁ~!(ふぁぁ、気持ちいい~!)」

緑の芝生の上、井上が胡桃色の体をぐぅんと伸ばす。

風もなく、穏やかな日差しが降り注ぐ公園。

そこでは、子連れの家族やカップルやガキ共が、思い思いの場所で憩いのひと時を過ごしていた。
そんな中、俺と井上は公園の片隅、芝生の上で日向ぼっこ。
芝生にころんと寝転がる井上の隣に、俺もまた腰を下ろす。

「ニニャー。(確かに、気持ちいいなぁ)」
「み、みーい?(ね、ネコの気持ちが解るよね?)」

そんなことを話しながら、井上と2人(2匹)でまったりと過ごしていれば。

「わぁ、見て!ネコちゃんがいるよ!」

目の前の遊具で遊ぶガキ共が、満面の笑みでこちらを見ていることに気づく。

「可愛い~!しっぽがくるんってなってるよ!」
「あっちのネコは、何だか凛々しくてカッコイイね!」
「どっちも珍しい色のネコだね。」
「2匹で一緒にいて、仲良しなんだね!」「………。」

そんなガキ共の声に、何となく気恥ずかしくなって。
ふと辺りを見回せば、周りのカップルや家族連れも、ちらちらとこちらを見ている。
そいつらは皆、同じように幸せそうな笑みを浮かべていて。

…確かに、ネコ2匹が仲良さげに寄り添ってる光景は、井上だって好きそうだもんなぁ。

ちらり…隣を見下ろせば、周囲の視線など気づきもせず、無防備にころころと転がる井上。

そう言えば、ちょうど一年前…ネコになった井上が、俺の部屋へやってきて。
で、何も知らない俺は、井上ネコを風呂へと連れて行って…で…。

「…………。」

ヤベェ…思い出しちまった…。

「ににゃあ?(どうしたの?黒崎くん)」

俺に若干の発情期が到来したなど露知らず、井上はくりんとした瞳で俺を見上げる。
だから、その上目遣いはヤベェんだって…ネコになっても。

「ニャニャ…。」
「み、みぅっ!?」

俺が井上にちょいっと右手(前足)でちょっかいをかければ、ぴくんっと反応する井上。
そのまま、井上に覆い被さるようにして、鼻先で井上のあちこちをつつく。

「みゃあぁ…っ!」
「わぁ、ネコちゃん達がじゃれ合ってるよ!可愛~い!」

どこぞのガキが何やら嬉しそうに叫んでいる声が聞こえた気がしたけど…知るか。
普段の俺なら、井上と外でいちゃつくなんて絶対しねぇんだけど、今日は別。

「ニャニャ…。(ちょっとぐらい、いいんじゃねぇ?どうせネコなんだしよ)」
「みぅっ…みゃあ…!(そんな…ああんっ…)」

しっぽをぴるぴるっと震わせながら、身を捩る井上。
ったく…こんな展開になったのは、ネコになってもクソ可愛いオマエが悪いんだからな?…って責任転嫁して。
俺と井上は、緑の芝生の上で、飽きることなくじゃれ合った。












「…して、喜助。今回はどうすれば元に戻る仕組みなのじゃ?」
「ハイ、今回は王道中の王道、ベタの極み!口づけで元に戻るようになってまス。」
「…それなら、ほかっておいても、じきにするじゃろうの。」
「ハイ~♪あとは、お二人さんが人目のない場所で行為に及んでくれることを祈るのみっスね!」
「…喜助…まさか今回はそれが狙いか…?」
「いやだなぁ夜一さん!誰もあの2人が公衆の面前で晒し者になる姿なんて、想像してませんって!」
「…つくづく悪い男じゃの、喜助…。」











「ニャニャ…。」
「みゅ、みゅうん…。」
「うふふ、あのネコちゃん達、ずっとじゃれ合ってるわね。」
「ね、可愛いね!」
「癒される光景だよね~。」
「ニャ。」
「みゅ…。」




ちゅっ。








…してしまいました。



(2016.02.22)
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