短い話のお部屋









「うーん、どの子がいちばん可愛いかなぁ…。」

俺の隣、唇に人差し指を押し当てて、店にずらりと並ぶぬいぐるみとにらめっこをする井上。

やがて彼女はその中の1つを手に取ると、嬉しそうに俺を見上げて。

「ねぇ黒崎くん!このマンドリルさんはどうかな?」
「…可愛いか?それ…。」






《4月7日》







今日は、井上と2人でチャドへの誕生日プレゼントを買うために雑貨屋へ来ている。

昨年の自分の誕生日、俺はチャドからずっと欲しかった洋楽のCDをもらっていて。

もうすぐ4月7日、チャドの誕生日。
当然、お返しにあいつが喜びそうな物を…なんて考えたら、俺の頭に真っ先に浮かんだのが、可愛い動物のぬいぐるみ。

けれど、そんな物を一人で買う勇気などとても持ち合わせていない俺は、買い物に井上を誘ったって訳だ。

…が。

「じゃあ、こっちのハシビロコウはどうかな!?」
「は、ハシビロコウって何だよ!初めて聞いたぞ、そんな生き物!」

…さっきから井上が選ぶぬいぐるみは、「可愛い」つーより「シュール」や「マニアック」の部類に入る気が…。

「むう、じゃあ百歩譲ってカモノハシはどうでしょう…。」
「…ま、まぁそれなら一応『可愛い』に当てはまる気がするし…いいんじゃねぇ?」
俺の同意を得た井上は、いそいそとカモノハシのぬいぐるみを手に取ると、両手でギュッと抱きしめた。

「茶渡くん、喜んでくれるといいね!」
「…だな。」

そうだな、喜んでくれるといいよな、ぬいぐるみなんてあの外見じゃ相当買いづらいだろうし。

ついでに、カモノハシなら枕の代わりにもなりそうだ。

…けど、ごめんなチャド。

お前の誕生日を祝いたいって気持ちは、勿論本当だけど。
井上と2人で、こうして買い物デートをする口実にしちまった…なんて言ったら、お前は怒るのかな。

鼻歌混じりに俺の隣を歩く井上をちらりと見下ろして。
俺はこっそりと、誕生日を迎えるチャドより一足早く、幸せな気分に浸った。












「あ、リボンも一緒に買わなくちゃ!」
「リボン?ラッピング用なら、店でサービスしてくれるんじゃねぇの?」

そう言って首を捻る黒崎くんに、私は首を振って見せた。

「ううん、違うよ。リボンはね、このカモノハシさんの首に茶渡くんに巻いてもらうの。」
「…は?」

再び首を捻る黒崎くんに、私はクスリと笑ってその理由を告げる。

「ぬいぐるみって、名前をつけて、リボンを首に巻いてあげた日が誕生日になるって、欧米では言われてるんだって。」
「へぇ…。」
「だから、茶渡くんが誕生日にこのカモノハシさんにリボンを巻いてあげたら、誕生日がおそろいになるでしょう?」
まだまだ弱くて、それでも黒崎くんの傍にいたいって、我が儘を言う私に、いつも何も言わずに寄り添ってくれる茶渡くん。
修行にも沢山付き合ってもらったよね。

だから、いっぱいの「ありがとう」をこのプレゼントに込めて。

茶渡くんの誕生日が、幸せな1日になりますように。
茶渡くんの誕生日が、寂しくない1日になりますように…。

「…成る程。」

私の説明に納得したように頷いた黒崎くんは、私の腕の中のカモノハシさんをじっと見つめて。
そして、ボソッと呟いた。

「…で、こいつ、首どこだ?」
「え?」

…あはは、多分、前足のちょっと上あたり…かな…?












「…チャド、これ。」
「…ム?」

4月7日、放課後。

一護と井上に呼び止められた俺は、2人から枕ぐらいの大きさの包みを差し出された。

そのリボンをほどけば、中には。

「…ム…!」
「えへへ。茶渡くん、お誕生日おめでとう!」
「…一護…井上…。」

俺が袋から2人の顔へと視線を移せば、そこには少し照れくさそうな一護と、綺麗な井上の笑顔が2つ、並んでいて。

「この子ね、黒崎くんと2人で選んだんだよ。気に入ってくれるといいんだけどな…。」

伺う様に俺を見上げる井上に、思わず笑みが零れる。

「…勿論、気に入った。」「ほ、本当!?良かったぁ、喜んでくれるかちょっとだけ心配だったんだ~。」
「…カモノハシだもんな。」
「ム…嬉しいぞ。一護、井上。」

俺が素直にそう言えば、一護と井上は顔を見合わせ、微笑みを交わした。

その光景に、俺の口元から再び零れる笑み。

…ああ、嬉しいに決まっているだろう?

こんな風に、誕生日を祝ってくれる友人が2人もいて。

…そしてその2人が、俺の誕生日をきっかけに、また1歩距離を縮めてくれたのなら。

「茶渡くんが幸せな誕生日を過ごしてくれたら、私も嬉しいな。だって大事なお友達だもん!」
「…ああ、ありがとう。」

そう、友の幸せは自分の幸せ…だから。

一護と井上が2人一緒に「幸せ」になれる様に、俺も願うぞ…。






「ねぇ茶渡くん、そのリボンをカモノハシさんの首に巻いてあげて、名前をつけてあげてね。そしたらこの子の誕生日も今日になるんだよ!」
「ム…そうか。」
「…や、チャド…そこにリボン巻いたら、腹巻きじゃね?」
「ム…。」
「…や…それだと何だかたすき掛けみたいだ…。」
「ム…。」
「チャド…お前意外と不器用だな…。」
「ねぇねぇ、この子の名前なんだけど、『チャドノハシ』くんなんてどうかな?」
「井上はストレートすぎだな!」






(2014.04.08)
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