《続・２月22日》





「いやぁ、井上サンは猫になっても美人サンっスね！」
「にゃ、にゃにゃ～！」

う、浦原さん！
何で私、ネコになっちゃってるんですか!?

…って言ったはずなのに、私の言葉は全部「にゃーにゃー」に変わっちゃう。

「いやぁ、今日は２月22日、猫の日なんでショ？つまり、皆さんで猫になる日。」
「にゃにゃー！」

そう言えば、確か一年前に黒崎くん達が猫に変えられちゃった気が…。

今年は私？
私がネコになっちゃったんだ！
どうしよう、今日は黒崎くんのお家に遊びにいく予定だったのに！

「今年の薬は、去年とまたちょっと違いましてね。より本格的になってまス。」
「にゃにゃぁ？」

本格的？本格的って何？

「それにしても…井上サン、本当に美人サンッスね。ペットショップに持ち込んだら高く売れ…。」
「にゃにゃーっ!!」

う、売らないでくださーいっ!!

浦原さんのその一言に、私は慌てて浦原商店を飛び出した。









「にゃー、にゃー！」

カリカリと、必死で引っ掻く黒崎くんの部屋の窓。
ベッドで寝転びながら雑誌を読んでいた黒崎くんは、直ぐに私に気付くとガラリと窓を開けてくれた。

「何だ、猫か？…って、うおっ！勝手に入ってきたぞ！」

えーと、玄関からじゃなくてごめんなさい！

ストンと黒崎くんの部屋の床に着地した私は、黒崎くんを振り返ってぺこりと頭を下げる。黒崎くんは困った様に首を捻りながらも、私の隣に胡座をかいて座った。

「…や…猫のくせに律儀だな、コイツ。まぁいいけどさ、別に。」

そう言って、黒崎くんは大きな手で私の喉を撫でてくれて。
…ああ、なんて気持ちがいいんだろう。
喉が勝手にゴロゴロ鳴っちゃうよ。

「人懐っこいなぁ。もうすぐ井上も来るし…アイツ、喜びそうだな。」

それが…もう来てるんです。
ネコだけど…。

「そういや、オマエの毛の色、井上の髪の色にそっくりだよな。」

そう言って、黒崎くんは私をひょいっと抱き上げ、まじまじと見つめる。

「…よく見りゃ目がでっかくて、しかも猫のくせにやけに垂れ目だし…ますます井上っぽい。」

そうなの、黒崎くん、私なの！
気付いて…そしたらきっと私、元に戻れる！
だって去年がそうだったもん！

「にゃーにゃー！」
「はは、暴れんなよ！」

私は身振り手振りで必死に訴えたけど、黒崎くんは結局私だとは気付かずに、私を膝にちょこんと乗せた。
ああ、気付いてもらえなかったなぁ…でも、黒崎くんのお膝に入れてもらえてちょっと幸せ…。

「そうだ、オマエ猫だけど井上そっくりだから、甘いモン好きだったりすんのかな？」

黒崎くんはそう言うと、部屋のローテーブルに手を伸ばす。

「ほら、苺大福だ。食うか？」

そして、目の前に差し出されたピンク色の大福に、私は思わず丸まっていた身体をピンっと伸ばした。
「お、欲しいか？…はは、よだれ垂れてるし。」

はっ！す、すみません！
でも私、苺大福大好きなの、苺を大福に入れようって最初に思いついた人を尊敬してるの！

「１個だけな。あとの２つは、井上のだから。」

そう言って、苺大福のビニールを剥がし、膝の上にいる私の口元へと差し出す黒崎くん。

「にゃにゃぁ…。」
「お、食った食った。猫って意外と何でも食うんだなぁ。」

…ああ、美味しい。
苺の酸味とあんこの甘味と、そして黒崎くんの膝の上…っていうコラボレーションが最高です…。

あ、そう言えば私今、苺大福を一護くんの膝で食べてる…。

「ぷにゃーっ!!」
「な、何だ？猫が吹き出した？」

そんなダジャレみたいな幸福に包まれた時間。
あっという間に苺大福を食べてしまった私に、黒崎くんは満足そうに笑って、親指で私の口元を拭ってくれた。

「はは、口の回りにいっぱいあんこついてら。本当、井上みたいだなぁ。」

うう、人間の私はそんなに口の回りにあんこつけたりしてないもん…多分。
でも…いっぱい優しい黒崎くん。
「ははっ」てよく笑う黒崎くん。

こんな黒崎くんが見られるなら、ネコになるのも悪くない。

「んー…あんこが毛にひっついて、拭ったぐらいじゃとれねぇなぁ…。よし、ちょっと洗ってやるか。」
「にゃ？」

そう言って私をひょいっと抱き上げる黒崎くん。

そして黒崎くんは、私を抱いたまま部屋を出て、軽い足取りで階段を下りて行った。












「…で、喜助。今年の薬は、どうすれば人間の姿に戻るのだ？」
「ハイ、今年はお湯を浴びると元に戻れる仕様にしました～♪」
「…喜助、それはどこかで聞いたことがあるネタではないか…？」












「ほーら、シャワーだぞ！オマエ首輪ないし、毛並みは綺麗だけどノラなんだろ？いっそ全身洗ってやるよ！」
「にゃ、にゃあ～!!」












「…して、あそこにある抜け殻のような衣服は？」
「勿論、井上サンの物ッスよ。昨年のは何でだか衣服ごと猫の毛になっちゃってましたが、今年はより本格的に身体だけで猫になれる薬に改良したんス。」
「…喜助…それは果たして改良か…？」










「…ん…？」
「ふにゃ…ふわぁっ！」
「…へ…あ…い、井…上…？」
「…あ、私、元に戻って…。」











「…まぁいいんじゃないっスか。付き合って１年、２人は未だに清い仲らしいっスから♪黒崎サンにはちょっと刺激的ぐらいがちょうどいいんスよ～。」
「…喜助、つくづく質の悪い男だな…。」












「う、うわぁぁっ////！」
「きゃああああっ！////」



(2015.02.21)