短い話のお部屋






1月1日、元日。

家族ですき焼きを囲むのが夢だと、彼女は言った。




《続・すきやき》





「いただきまーす!」

食卓に乗ったすき焼き用の鍋から立ち上る香り。

まだ熱くて食べられない子供達は、早く食べたくて取り皿とにらめっこしている。

「ママ、ふうふうして!」
「ぼくのもして!」
「咲織は自分で出来るだろ?」

俺はそう言ったが、嫁さんはにっこりと微笑んで2つの皿に交互に息を吹き掛けてやる。

そんな何気ない光景に、柄にもなく俺の胸はきゅうっ…となった。




高校時代、一緒に行った初詣で、兄貴が生きてた頃は元日にすき焼きを食べたんだ…と話した嫁さん。

その帰り、俺の家も元日はすき焼きなんだ…って、思い切って彼女を夕食に誘った。

そして、次の年からは俺の「彼女」として、一緒にすき焼きを囲んで。

いつしか、「彼女」は「嫁さん」に変わり、そして今は目の前に俺そっくりの息子と嫁さんに瓜二つの娘。

「ママ、お肉もっとほしい!」
「おうどんたべたい!」
「もう?おうどんはシメなんだけどなぁ…。」

丸いほっぺを赤くして、はふはふとすき焼きを頬張る子供達と、二人を世話する嫁さんを眺めて。
ああ、こんな時間を「幸せ」って言うんだろうな…なんてじんわり感じてしまう自分に、俺も歳をとったんだな…なんて1人で突っ込みつつ。

それでも、嫁さんとふと目が合えば、彼女の優しい瞳に宿るのは多分俺と同じ想い。

「…一護くんもちゃんと食べてる?」
「おう。織姫こそ、子供の世話ばっか焼いてねぇで、ちゃんと食えよ。」

そんな言葉を交わして、くすり…と笑い合う。

部屋が温かいのは、多分鍋のせいだけじゃない。

「ねぇ…これからもこうして毎年、元日にすき焼きを食べられるといいね。」
「…だな。」




1月1日、元日。

家族ですき焼きを囲むのが夢だと、彼女は言った。


それは俺にとっても、ささやかでありふれた…けれど大切な大切な、1年の始まりを迎える行事となった。


これからも、ずっと。

俺とオマエの夢を、叶え続けるよ。

俺とオマエのかけがえのないモノ全部、この手で護ってみせるから。


「…ん、美味い。」
「美味しいね。咲織と真護も美味しい?」
「「うん!」」



1月1日、元日。

それは、すき焼きを食べながら、俺が密かに誓いを立てる日…。












「よう、一護、織姫!」「明けましておめでとう。」
「あ、恋次くんとルキアちゃんだぁ!」


…せっかく、家族水入らずで夕食を楽しんでいたというのに。

元日の夜だなんてことは一切お構い無く、平然と窓から飛び込んできたのは、もう長い付き合いになる赤と黒の死神夫婦。

「あ、いらっしゃい!明けましておめでとう、今年もよろしくね!」
「オマエら、元日から早速遠慮のねぇ夫婦だな…。」

招いた覚えのない客の登場にげんなりする俺をよそに、織姫は二人を快く出迎え、咲織と真護はきゃっきゃっと大喜び。

「ねぇ恋次くん、後で遊んで!」
「あしょんで~。」
「おう、飯食ったらな。」

恋次がニカッと笑い、咲織と真護の頭をぐしゃぐしゃっと撫でるその横で。

「織姫、差し入れだ。」
「わ!白菜だ、ありがと~!きっと今年も二人が遊びに来るんじゃないかなって思ってたの!」

そう言いながら嫁さんは恋次とルキア二人分の取り皿と茶碗を並べ始める。

「かたじけない、織姫。」
「ううん!鍋は大勢で食べるのがいちばん美味しいんだよ!」

そして当然の様に食卓についた二人の死神は、「いただきます」と手を合わせた後、いきなり鍋から食べ頃だった肉を軒並みかっさらった。
「あっ!恋次テメェ、何しやがる!」
「あ?ケチくせぇ男だな、一護。新しい肉を入れりゃいいだけじゃねぇか。」
「パパ、ぼくのおにくあげようか?」
「おお、真護は父親に似ず優しいな。性格だけでも織姫に似て本当に良かった。」
「ルキア、お前も白菜差し入れただけでデケェ顔すんな!」
「だ、大丈夫だよ一護くん!お肉まだ冷蔵庫にあるから!」
「きゃはは、みんなでお鍋、楽しいねぇ!」





…とりあえず。

大事な嫁さんと子供達を護りたい…より何より。


落ち着いてメシが食える1月1日の食卓を俺は守りたい…。












「はぁい、一護、織姫!あけおめ♪」
「わ、乱菊さんに冬獅郎くん!明けましておめでとう!」
「…げ、オマエらまで…。」
「馳走になるぞ。松本、新年だからと言って飲みすぎるなよ。」
「隊長ったら、固いこと言わないの。織姫、これ差し入れよん。」
「わ!しらたきだ!ありがと~!」
「…だからもう少しマシな差し入れ持ってきやがれ!」
「きゃはは!お客さんたくさん!」
「たくしゃん~!」











(2014.01.01)
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