短い話のお部屋
《クリスマスにほしいもの》
…もうすぐクリスマス。
黒崎家でも、織姫が可愛らしくデコレーションしたツリーがかなり前から飾られている。
しかし、一護と織姫にはある悩みがあった。
「なあ咲織、クリスマスプレゼント、何が欲しいかそろそろ教えてくれないか?」
「だめ!パパにもママにもひみつなの。」
二人の悩み…それは3歳になる一人娘・咲織が、どうしてもクリスマスに欲しい物を教えてくれないことだった。
「ママからも、サンタさんにお願いしたいの。だから、ね?」
「だいじょうぶだよ、ママ。サンタさんにはちゃんとおねがいしたもん。」
12月24日はすぐそこなのに、どう言っても頑として口を割らない娘に一護も織姫もほとほと困っていた。
「なあどうする?適当な物用意しても、『これじゃない!』とか言いそうだよな、アイツは…。」
普段はほえほえ~っとしている癖に、この頑固さは絶対ヨメさん似だ…などと考えながら、一護が溜め息まじりにそう織姫に耳打ちする。
「うん…。どうしたら上手く聞き出せるかしら…。」
織姫と一護は考え抜いた挙げ句、咲織を連れてクロサキ医院へと出掛けることにした。
両親には言わないプレゼントのことも、一心や遊子や夏梨にならうっかり話すかもしれない…と期待したからであった。
「おじいちゃん、こんにちは!」
「おお、咲織ちゃーん!ささ、おじいちゃんのお膝においで~!」
猫なで声の一心に一護は今すぐ裏拳の一発も食らわせたい気分だったが、頼み事をこちらが抱えている以上、今日だけは我慢することに決める。
一護と一心が咲織を構っている隙に、織姫は遊子と夏梨にそっと用件を伝えた。
頷いた遊子と夏梨が咲織に近づき一緒に遊び始め、一護と織姫は二人と入れ替わりにそっと部屋を出ると、扉の隙間から様子を覗く。
「…そう言えば咲織ちゃん、クリスマスのプレゼント、サンタさんにもう頼んだ?」
一緒にお絵かきをしながら、なるべく自然に遊子が話題をふった。
「うん!もうサンタさんにゆってあるよ!」
にっこりと笑って答える咲織に、遊子も笑顔で続ける。
「そっかあ…でも、サンタさんはとっても遠いところに住んでいるから、すっごく大きな声でお願いしないと聞こえないんだよ?」
「…え?そ、そうなの?」
先程まで自信満々だった咲織が、急に不安な顔に変わる。
「そう!だから、もう一回大きな声でお願いしようよ!」
「…うん!わかった!」
遊子の提案に元気よく頷く咲織に、一護は扉の影でガッツポーズをした。
「…よし!でかした遊子!」
咲織はとてとてと部屋の窓に近づき、うんしょと小さな手で開け放した。
そして、すうっと息を大きく吸い込むと、精一杯の声で叫んだのだった。
「サンタさああん!さおるにぃ、おとうとか、いもうとをくださあああい!!」
「な…なにぃ?!」
一護は大慌てで部屋に飛び込み咲織を窓から引き剥がすと、窓をぴしゃりと閉めた。
「ご近所様に、なんつーこと言うんだ!!」
「どしたの?パパ。咲織はサンタさんにゆったんだよ。」
きよとんとしている娘に一護の焦りが伝わる訳もなく。
「がっはっは!それなら咲織ちゃん、サンタさんじゃなくてパパとママに頼まなきゃ…ぐほっ!」
「余計なこと言うな、クソ親父!」
一護は慌てて一心に蹴りを入れる。
「ついでに言うと、咲織ちゃんが毎晩ちゃんと早く寝ると、弟か妹に早く会えるかも…ぶほっ!」
「だからてめえは黙ってろっつってんだ!アホ親父!」
ぎゃあぎゃあと大騒ぎで格闘している父親と祖父を、きゃっきゃっと大喜びで見ている咲織。
そんな三人を更に遠巻きで織姫と遊子と夏梨が見守っていた。
「…どうする?プレゼント、イブまでに用意するなんて絶対に無理じゃん…。」
「う、うん…。」
夏梨にそう言われ、織姫が赤い顔で俯いた。
「…とりあえず、2番目に欲しいもの、頑張って聞き出してみようか?」
「う、うん…。お願いするね、遊子ちゃん…。」
遊子の提案に、こくりと頷くことしかできない織姫。
「そうそう、あとは一護が毎晩頑張るだけ…ぎゃああっ!」
「いっぺん死んでこい、このクソヒゲ!!」
「パパ、わざが決まったー!かっこいい~!」
…そんな風に賑やかな、12月23日の黒崎家。
(「うんどうかい」の10か月前のお話です)
(2012.12.24)