短い話のお部屋






8月某日。猛暑。





《出校日》






蝉時雨が包む校舎。
遊子と夏梨は、担任の後ろをついて歩いていた。

三人の両手には、ポスターやら、日誌やら、プリントやら…今日集めた提出物が抱えられている。


「はい、ありがとう、遊子さん、夏梨さん!助かったわ。」

二人の担任はそう言って、職員室のスチールロッカーの上に抱えていた課題をドサッと置いた。

「いえ、大したことないです。」

そう、自分の手の中のポスター類を置きながらさらりと言う夏梨に、担任はふと思い出したように。

「…そう言えば、お兄ちゃんは元気?」
と問いかけた。

「え?!お兄ちゃんを知ってるんですか?!」
嬉しそうに尋ねる遊子。

「知ってるわよ。私この学校、長いからね~。一護くんの担任もしたことあるわよ。」

「ええっ!そうなんですか?!」
「うわ~、お兄ちゃん、どんな風でしたか?!」

興奮して捲し立てる双子に、担任はにっこりと微笑みを返した。「もちろん、目立ってたわよ。あの髪の色だし…運動は何でもできたから。運動会のリレーとか、毎年選手に選ばれてたわね。本人は目立つの、好きじゃなかったみたいだけど…。友達も多かったわね。沢山の男の子達とサッカーをよくしてたなあ。」

うんうんと頷きながら話を聞く遊子。

「もう高校生よね、一護くん。今、どうしてる?元気かしら?勉強で忙しいかな?」

「はい、毎日勉強のフリして、彼女とデートしてます。」
「か、夏梨ちゃん!」

しれっとそう言う夏梨に、慌てる遊子。

担任も、一瞬驚いたように目を丸くしたものの、すぐに柔和な笑顔に戻った。

「そうねぇ、一護くん、格好いいし、モテそうよね。彼女はどんな人?」

「一兄には勿体ないぐらい、可愛い彼女です。」
「か、夏梨ちゃん!確かに織姫ちゃんは可愛いし、頭も性格もスタイルもいいけど…うちのお兄ちゃんだって負けてないよ!」

担任は二人のやり取りをクスクスと笑いながら眺めた。

「それじゃ、もう一護くんの彼女に会ってるんだ?」「会ってますけど…彼女としては紹介されてないです。」
「一兄、バレてないつもりみたいで。もうとっくに家族全員気づいてるのに。」

「そういうところも、一護くんらしいわね。」




「ハックシュ!」
「黒崎くん、風邪?クーラー強すぎたかなあ。」
「いや…そんなことねーけど。」

織姫の部屋で、今日も勉強兼デートをしている二人。

「…ったく、この課題の量、半端じゃねぇよな。井上なしじゃ、やってらんねぇ。」

もう飽きた、と言わんばかりに一護はシャーペンをノートの上に放り投げた。

「いえいえ、私が教えられる教科なんて偏ってるし…理数系は黒崎くんの方が強いでしょ?」

そう言う織姫に、じりじりと一護は詰め寄ると、参考書を調べている彼女を後ろから抱きしめた。

「わひゃあっ!」
「ほんっと、こんな時間でもなきゃ、やってらんねぇよな。」
「く、黒崎くん、勉強は?」
「休憩だ、休憩。」


…まさか二人のこんな関係が妹達にバレていて、しかも母校で話題になっているとは、欠片も思っていない一護だった…。



(2012.9.11)
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