それはイタズラじゃなくて

 




…楽しい時間はあっという間に過ぎていく、とはよく言ったもので。

気が付けば、時刻は10時半を過ぎていた。

「ああ、もうこんな時間かよ…。」
「本当だ。…帰らなきゃ、迷惑かけちゃうね。」

名残惜しそうに呟く井上の頭を、俺はくしゃくしゃっと撫でてやった。

「また、いつでも来いよ。ぶっちゃけ、理由なんざどうだっていいんだからさ。」
「…うん。」

井上は少し淋しそうに笑うと、踏ん切りをつけるようにベッドから立ち上がった。

「送ってくから。」
「え?いいよ、大丈夫!」
「駄目だ。本当、無防備だなオマエは…。」

危なくて、井上一人でなんて帰せる訳ねぇだろ。
いや、このまま俺と二人で部屋にいるのも、ある意味危険なんだが…いやいや、そうじゃなくて。

俺はやましい気持ちを誤魔化す様に慌ててドアノブに手をかけ、井上と部屋を出ようとした。


…しかし。


「…ん…?」


ガチャ、ガチャとドアノブから音は出るのに。


「どうしたの?黒崎くん…。」

井上がきょとんとした顔で、ドアノブと俺を交互に見る。

何でだ?

「あ、開かねぇ…!!」

何度、押しても引っ張っても、うんともすんとも言わない部屋のドア。

「こ、壊れたのか?!」
「あ、黒崎くん、ドアの隙間に何か挟まってるよ!」

井上の指差す先には、一枚の紙切れ。

俺はそれを引き抜くと井上と一緒にそこに書かれたメッセージを目で追った。

『織姫ちゃんへ。
今日は来てくれてありがとう!
でも、くれたのはお菓子じゃなかったから、織姫ちゃんにもイタズラです!
よかったらそのまま泊まっていってね!』


「はああーっ?!」
「う、うそっ!」

思わず大声を上げる俺と、唖然とする井上。

こんな風に扉をガッチガチに固定するなんて、どうせ親父も協力してるんだろうが…。

何度試しても、開かないドア。
壁を叩いて、隣で寝ているであろう妹達に呼び掛けても返事はない。

「…どうしようか…。」

井上が思案顔でそう呟く。

「あ、黒崎くんが死神化すれば、窓からぴゅーんって行けるよ!」
「いや、そうしたら明日アイツらに説明の仕様がねぇし…。」
「そ、そっか…。」

ベッドに再びどさっと座る俺と、その横にちょこんと座る井上。

時間は刻々と過ぎていく。いい考えも浮かばないし、あまり遅くなれば今度は送ることそのものが躊躇われる。
俺は、ガリガリっと頭をかいた。

「…ああ、もうめんどくせえ。井上!」
「は、はい!」

俺の意を決した呼び掛けに、井上は背筋をぴっと正した。

「…このまま、泊まってけ。…別に、何にもしねぇから。」

多分…と心の中で付け足して。
正面を見据えて言う度胸もなく、明後日の方を見てそう言う俺の耳に入ってきたのは。

「…お、お邪魔でなければ…。」

小さな、しかし確かな承諾の声だった。




…その頃、隣の部屋では。

「…静かになったね。」
「諦めたんじゃない?」

遊子と夏梨がひそひそと楽しそうに話していた。

「こうでもしないと、進展しそうにないしね。」
「織姫ちゃんをお兄ちゃんから随分長い時間とっちゃったから、お返ししないとね。」
「私達、出来た妹だよね、全く。」
「これって『イタズラ』じゃなくて、『親切』かな?」
「『思いやり』とか?」

クスクスと笑いながら、楽しかった今日一日を思い出す二人。


こんなハロウィンパーティーも、悪くないでしょう…?






《あとがき》

ハロウィンに間に合わせようと超特急で書き上げました。タイミングよく旦那ちゃんが出掛けたのでその隙に…(笑)。なので誤字脱字などあったらごめんなさい。気が付けば、何だか甘い展開に…わはは。

ですが、一護が双子ちゃんに織姫を取られてイライラ…みたいな展開は、他のサイト様でもありますよね。ネタかぶり気味ですみませんm(_ _)m。
でもどうしても書きたかったんです…。

それにしても、私は未だにハロウィンの楽しみ方がよく分かりません…(笑)。

それでは、読んでいただきありがとうございました!




(2012.10.28)
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