それはイタズラじゃなくて





「おおっ!織姫ちゃん!いらっしゃー…ぐあっ!」
「抱きつこうとするな、クソ親父。」
「今日のその服は、ウィッチを意識したのかな?可愛い!可愛い…ぐあっ!」
「服にも触るな、ヒゲ達磨。」

俺は親父に蹴りを入れながら、内心「だから今日の井上は珍しく黒のワンピースなのか…」と思った。

俺より親父が先にそのことに気が付いたのが悔しくて、一発余分に肘鉄を食らわせる。

「ささっ、食べよう!」
「そうだよ、せっかく出来立てなんだから!」

そう言いながら、遊子は井上の左側へ、夏梨は右側へと座った。

おい、なんだその「両側きっちりガードしてます」みたいなオーラは…。

それなのに井上は井上で、妹二人の間にちょこんと嬉しそうに座っていて。
普段、独りで食事を取っている自分には、こんな食卓が羨ましいのだと彼女が話していたのを思い出した。

まあ、いいか…。

楽しそうに食事をする井上と遊子と夏梨の様子を眺める。
恋人として、兄として。
…こういう眺めは、悪くない。

俺は時々その間に無理矢理入ろうとするうざい親父を阻止しながら、テーブルにある食事を平らげることに専念した。



…しかし。遊子と夏梨の「井上独占」は、食事時間だけに終わらなかった。

食事の後、三人で食器を片付けて、それが終われば三人で風呂へ。
「井上に風呂の用意を持たせてほしい」とは夏梨の弁だったな…と思い返しながら、風呂場から聞こえるはしゃぎ声に耳をそばだててしまう。

「織姫ちゃん、胸おっきいよね~。」
「そ、そうかな…きゃっ!」
「ご、ごめんなさい、触っちゃった!」
「お風呂、三人だと狭いし、仕方ないよ~。」

…おいコラ、彼氏の俺ですら触ったことないっていうのに、どっちが触ったんだ…。

風呂から出たら、井上は俺の部屋に連れて行こう…そう固く心に誓う俺。

なのに、三人が風呂から出たら、今度は俺が風呂に押し込まれ。
風呂から出たら、三人でファッション雑誌を囲んでガールズトークの真っ最中。
確かに、そこは兄貴の俺じゃあカバーしてやれない部分だが…。

井上は、俺の彼女としてここに居るんじゃないのか?
彼氏の俺がこんなにほかっておかれるなんて、いいのか?

「いっちごぉ~!こっちはこっちでボーイズトークしようぜ~!」
「するか、クソ親父!つーか、てめえはボーイズでもねぇだろ!ツッコミどころが多すぎだろ!」

ここぞとばかりに、親父に苛立ちのこもった蹴りをお見舞いしてやる。

「ああもう、お兄ちゃん達うるさいよ~。」
「織姫ちゃん、私達の部屋に行こう。」
「な、何?!」

親父との取っ組み合いの姿勢のまま、固まる俺をヨソに、井上の背中を押して自分の部屋へ連れていく遊子。

…そして、いちばん後ろをついていく夏梨が、くるっと俺の方を見て言った。

「一兄が、ちゃんとお菓子をくれないからだよっ!」

んべっと舌を出して、夏梨もまた階段を登って行った。



…唖然とする、俺。

なんだ、つまりこれはハロウィンの「イタズラ」だって言うのか?

いや、これは「イタズラ」と言うより「嫌がらせ」じゃないですか?妹よ…。


その後、部屋の隣から壁越しに響く賑やかな声を、独り虚しく聞くしかない俺だった…。




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