新しい風景





そして、ああ、そっか…と今さら気が付いた。


別に、ドラマや小説に出てくるようなお決まりのデートコースなんて、必要ないってこと。

俺が格好つけようがつけまいが、井上は変わらず隣にいてくれるっていうこと。

俺が道筋を決めるんじゃなくて、ふたりで一緒に新しい景色を見ていけばいいんだってこと。


芝生についた俺の手のすぐ横にある小さな手。
ちょっと迷って、思いきって握れば、肩に乗っていた頭がぴょこんと跳ねて、まん丸の目が俺を写す。

「…ちっせえ手。」

ぼんっと音が出そうな勢いで赤くなる井上。心臓をばくばくいわせつつ、平然を装う俺。

「い、意外と、大胆ですな、黒崎くんは…。」

そう言って、きゅっと俺の手を握り返した。

よく言うよな、先に仕掛けたくせに。



周りを見渡せば、ベンチや木陰に俺たちのような二人組がちらほら。

どのカップルを見ても幸せそうだが、断言できる。


いちばん幸せなのは、この俺だって。
井上と二人。

温かくて、穏やかで、楽チンで、ふわふわしてる。


堪らない、この感じ、この空気。

ほらな、星占いなんて、やっぱり宛にならないんじゃねえか、なんて思ってみる。


「…なあ、井上。」
「なに?黒崎くん。」
「また来週にでも、映画見に行こうぜ。その後…また、ここに来よう。」
「…うん!」

まるで、ぱあっと花が開くみたいに。
ああ、その笑顔、ホント堪らない。


「では、ランチにしましょう~!」
「って、また食うのかよ!」

嬉しそうにクリームパンの袋を破りだす井上に突っ込みつつ、『初デート』を俺は満喫することにした。


悪くない、この感じ。
ずっと、続くといい。きっと、大丈夫。

井上と、新しい風景をたくさん見つけられる。…そんな、根拠のない確信を胸に抱く。



…まあ、家に帰ったら、やっぱり親父はシメるけどな。





《あとがき》

なんか…駄文にも程があるって言うか…(泣)。


ピュアで初々しい二人が書きたかったんです。そしたら、無駄に長い。すごい展開を期待された方、ごめんなさい。


お付き合いいただきありがとうございました!


2012.8.31
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