織姫7変化!
大人しく席に着く一護に、織姫はとびきりの笑顔でコーヒーを差し出した。
「黒崎くん、コーヒーをどうぞ!」
身体のラインにぴったりフィットしたドレスは、織姫の豊かな胸を誇張するようで。さらに、両サイドのスリットからチラチラ覗く、太ももの白さが眩しい。
こんな格好の織姫が、男たちの視線に晒されているのだ。一護のイライラはみるみる募っていく。
一方でまた、こんな状況にしてしまった己の失言に後悔し…眉間の皺は増える一方。
「井上さん、写メ撮っていいですか~?」
「うわ、これ待ち受けにしようぜ!」
と言う台詞に机を破壊しなかったところだけは、誉めるべきかもしれない。
「あのさ、一護。店の雰囲気が悪くなるから、お客を睨むのやめてくれないかな?」
水色が側に来て、そうやんわりと忠告した。
「別に、いいだろ。俺だって、客なんだから。」
もうしばらく待てば、織姫目当ての男たちも帰るだろう。そうしたら、織姫をここから連れ出して…
そんなことを考えながら無意識に織姫の後ろ姿を目で追う一護に、水色がにっこりと笑って言った。
「一護、コーヒーもう一杯、頼まない?また、井上さんに持ってきてもらうからさ。」
「お、おう。」
見れば、とっくに空のカップ。一護は渋々二杯目を注文した。
「黒崎くん、コーヒーのおかわりで~す!」
「おう…って、なにいっ?!」
コーヒー一杯の割に時間がかかるな…と思いながら待っていた一護は、驚きのあまり思わず立ち上がっていた。
そこにいたのは、なんとナース姿の織姫だったのだ。
「な、なんでそんな格好なんだよ!」
「え?えとね、着替えたんだよ、さっき…。」
純白のナースユニフォーム。ミニスカートから覗く両脚が魅惑的で。
長い胡桃色の髪は、綺麗にまとめあげられていて、そこにちょこんと乗ったナースキャップがまた、彼女の可愛らしさを助長している。
「へ、変かな…?」
自信なさげに一護を見上げる織姫。最早、その上目遣いは殺人兵器並み。
「いや、へ、変とかじゃなくってよ…。は、そうじゃなくて!な、何で着替えてるんだよ!」
「だって、それが今回のウリだから。」
横から、水色がここぞとばかりに割って入った。
「コスプレ喫茶やるのに、お揃いの衣装を準備するの、大変じゃん?だったら、いっそ、色んな衣装をちょっとずつ集めて、色んなコスプレを楽しんでみようってことになったんだ。」
つまり、織姫目当ての客は、彼女が着替える度に、何度でも店に足を運ぶし、店に長居したければ、何杯でもコーヒーを注文することになる。
「か、考えたな、水色…。」
首謀者は啓吾だったが、真の黒幕はここにいたのだ。
「うわ、今度はナースだぜ!」
「俺、コーヒー追加!井上さん、写メもう一枚頼むよ!」
色めき立つ外野に、一護はこめかみ辺りの血管が「ぷちっ」と鈍い音を立てたのを聞いた。
「ふっざけんな!」
「え?きゃああっ!」
織姫の手を掴むと、一護は一気に走り出した。
「く、黒崎くん!ど、どこ行くの~?お店がまだあるのにっ!」
唖然とする外野を無視し、とりあえず人目のないところを目指して走っていた一護は、空き教室を見つけるとそこに飛び込んだ。
「…っは、はあっ、はあっ…。」
窓硝子から姿が見えぬよう、息の上がった織姫を床に座らせ、自分もまた腰を下ろした。
そのまま、織姫を強引に抱きしめる。
「わひゃあっ?!」
真っ白なナースコスチュームのせいか、織姫の顔が一層真っ赤に見えた。
「く、黒崎くん、わたし、お店に、戻らなくちゃ…。」
そろりと顔をあげ、小さな声で織姫が訴えた。が、
「ダメだ。」
当然、一護の腕の力は緩まない。
「休憩には、一緒に文化祭見て回ろう?だから…。」
「休憩って…あとどんだけ待てばいいんだよ。」
「え、えとね?このあと、婦人警官さん、先生っぽいスーツとメガネ、メイドさんにチアリーダーに…んと、それだけ着替えたら終わりだよ?多分…」
「却下だ!!」
自分の腕の中、指折り数えて思い出すようにそう言う織姫に、一護は隠れていることも忘れて大きな声で言い切った。
「く、黒崎くぅん…。クラスのみんなに迷惑かけちゃうよう…。」
織姫が必死で一護を説得しているころ。
看板娘の織姫が抜けてしまった喫茶店では…
「ごめんね、井上さんいなくって。でもコーヒー追加につき、生写真一枚つけるから、それでどうかな。」
こうなることを当然予想していた水色は、衣装試着時に撮った織姫の写真を焼き増ししておいたのだった…。
〈あとがき〉
一×織文化祭ネタは他のサイト様で素敵なのを沢山見ているので、今更とも思ったのですが…。
きっと織姫は何を着ても似合うよね、ということが書きたかったのかな、自分…。
(2012.8.28)