織姫7変化!






「…っと言うわけで、我がクラスの文化祭の出し物は、コスプレ喫茶に決定~!」

啓吾の一声に、わっと沸くクラス。あれよあれよと言う間に決まっていく仕事分担、当日までの予定表。

織姫は当然のように接客、つまりはコスプレウェイトレスに推薦され、気がつけばそれは決定事項となっていた。




「…ところでさ、一つ頼みがあるんだ。」
「なあに?小島くん。」

帰りがけ、荷物を鞄にしまっていた織姫は水色に声を掛けられていた。

「今回の件、一護に了解を取っておいてほしいんだ。」
「…え?」

きょとんとして小首を傾げる織姫に、水色は内心「やっぱり分かってないな」と思った。

「あとで、面倒なことになると嫌だからさ。」
「…?うん、いいけど…。」

水色の意図がいまいち読めないまま、とりあえず頷く織姫。

「今日は部活がないから、一緒に宿題する約束なの。聞いてみるね!」

花のような笑顔でそう言うと、織姫は一護の待つ下駄箱へと走っていった。
一護と付き合うようになって、ますます可愛く、魅力的になっていく織姫。但し、本人にその自覚は皆無。

「一護も大変だなあ…。」

水色は苦笑しながら、揺れる胡桃色を見送った。
夕方、織姫の部屋で向かい合って宿題に取り組む二人。一護の右耳には、最近買ったばかりのCDを聴くため、イヤフォンがつけられていた。

「黒崎くんのクラスは、出し物もう決まった?」
「ん?ああ、お化け屋敷とか何とか言ってたな。」

空いている左耳から入る織姫の声。
シャーペンを走らせながら、こういったイベント事にあまり興味のない一護は、まるで他人事のように呟いた。

「そ、そうなんだ!うちのクラスはね、喫茶店をやるんだ。で、でね…。」

織姫は躊躇したが、視線を自分の足元に落とすと、もじもじしながら言葉を続けた。

「えと、わたし、ウェイトレスになってね?多分、色々、衣装を着るんだけど…いいかなあ?」

しかし、その大切な一瞬、一護の意識は耳元で流れる音楽に行ってしまっていた。

はっと気がつけば、じっとこちらを見つめて、返事を待っている織姫がいる。

「え、あ、いいんじゃね?別に…。」

真剣な表情で自分を見つめる織姫に話を聞いていませんでした、とは言えず、適当な相槌を一護は打ってしまった。

「そ、そうだよね!ごめんね、変なこと聞いて!」

あはは、と紅くなって織姫が慌てて笑った。心のどこかで、一護が反対してくれることをほんのちょっとだけ期待してしまった自分が恥ずかしくて、悟られたくなくて。

「あ、こ、コーヒーのおかわり作ってくるね!」
逃げるように、キッチンへ向かう織姫。
「お、おう。」

一護もまた、この話が長引かなかったことにほっとしていた。


そして時は過ぎ、文化祭当日。

一護はお化け屋敷で客が近づいてきたら背中に糸で吊るされた蒟蒻をぺたりとくっつける役だった。

「…たり~。」

ホンモノを五万と見てきた一護にとって、お化け屋敷は退屈の極み。

「俺、ちょい休憩するわ。」

適当に理由をつけ、一護はお化け屋敷を後にし、校内を回ることにした。
そうなれば、当然隣には彼女にいてほしいわけで。

「…井上のクラスは喫茶店って言ってたよな、確か。」

織姫をちょいと連れ出して文化祭を満喫したら、残り時間は真面目に蒟蒻を振り回してやろう…そう思って喫茶店の扉を開けた、そこには。

「あ、黒崎くん!」
「なっ…い、井上!?」

赤い布地に、きらびやかな刺繍の入ったチャイナドレス姿の織姫が、ふわりと髪をなびかせて振り返った。

「いらっしゃいませ~!どうぞ、どうぞ~!」
「な、何だよ!その格好!」

「あのね、チャイナドレスって初めて着たんだけど、びっくりなんだよ!歩くと脚がすうすうするの!」

そりゃいつも布地で隠れてる部分に風が当たれば、すうすうもするだろう…と言いたいが、言葉にならない。

「あ、一護、来てくれたんだ。」
「いっちっごぉ~!どうだ?この啓吾様のアイデア…ぐはっ!」

一護の拳が、啓吾の鳩尾に炸裂した。

「やっぱりてめーが首謀者かコラ。」
「あれ、でも一護、ちゃんと許可してくれたんでしょ?井上さんのコスプレ。」

水色がそう言うので、一護は思わず織姫を見た。

「ちゃんと、いいって言ってくれたよ…?あの、二人で宿題やったときに…。」

眉間の皺が5割増しだった一護の顔色が、さっと変わった。

「あ、あんときか…!」
「一護、心が広いなあって、感心したんだよ、僕ら。」

悪意のある笑顔でそう言う水色に、今更ぐうの音も出ない一護。

「あの、黒崎くん、よかったら、コーヒーでも飲んでいかない…?」

男たちの会話におずおずと入ってきた織姫は、ちょんと一護の袖口を掴むと上目遣いで一護にそう言った。その破壊力たるや、ドレスのお陰でこれまた5割増し。

「あ…お、おう。」
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