きれいな感情《後編》






「え…?」

何だか今、凄く凄く嬉しい台詞が聞こえたような…。

思わず黒崎くんを見上げたら、黒崎くんは私の両手を解放してくれて、照れを誤魔化すように私の頭をくしゃくしゃっと撫でた。

「…そりゃ、俺だって『初めて』に決まってんだろ。そもそも女を意識したの、井上が初めてなんだからよ…。」

明後日の方を見ながらも、耳まで真っ赤な黒崎くん。

ああ、神様、幸せすぎて死んじゃいそうです。

私の『初めて』が、黒崎くんの『初めて』でもあったなんて…。

「…あのな、だから何でそうやってすぐ泣くんだよ。」

気がついたら緩んでいた涙腺。黒崎くんの手が私の頬に触れて、やっと気付いた滴。

「だって…『初めて』も『二回目』も『三回目』も黒崎くんにもらってもらえて、それだけで幸せなのに。黒崎くんの『初めて』と『二回目』と『三回目』を同時にもらってたんだって思ったら、何か嬉しすぎて、泣けちゃったの…。」

黒崎くんは、長い指先で優しく涙を拭き取りながら、ちょっとだけ意地悪く笑って。

「それこそ、お互い様だろ。大体『何回目』なんて数えていられるのも今のうちだからな。」

言っている意味がよくわからなくて返答に困っていたら、黒崎くんの顔が近づいてきて。

「…回数なんかわかんなくなるくらい、これから沢山するってことだよ…。」


そうして、私は。

黒崎くんと『四回目』の交換をした…。



黒崎くんが帰った後。

黒崎くんの帰って行った夜空を窓から見たら、今夜は星が本当に綺麗だってことに今更気がついた。

枕を抱きしめながら、1人今日のことを思い返す。


黒崎くんは、私に側にいてほしいって望んでくれた。


私は、きっと黒崎くんが思うほど「出来た女の子」じゃない。

人を羨んだり、嫉妬したり…肝心なところで役に立たなくて落ち込むことだってある。


それでも、黒崎くんが必要としてくれるなら。

私の中の「きれいな感情」を、全部黒崎くんに捧げたい…。

ずっと、ずっと…。








《あとがき》

これで本当に完結です!

本当に書きたかったのは、最後のシリアスな織姫1人語りだったのですが…何でだろう、その前のイチャイチャが長い(笑)。だ、蛇足だったかしらやっぱり…。

それにしても、他サイトで長編を書かれている方々は凄いなあ…とたかだか10ページすらまともに書けない私は心の底から思ったのでした。

読んでいただき、ありがとうございました!

(2012.9.10)
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