きっと2度目は






どれくらい、そうして泣いていたのだろう。

憧れていた黒崎くんの腕の中で、漸く落ち着いて、普通に呼吸が出来るようになって。
ふわふわとした幸せを噛み締めていたら、黒崎くんがぽつりと呟いた。

「…あ、今演奏してるの、多分チャドのバンドだ。」

今まで外の音に耳を傾ける余裕なんてなかったから全然気が付かなかったけれど、ずっと軽音楽部の演奏は続いていたみたいで。

「もしかして黒崎くん、茶渡くんの演奏を見るために残ってたの?」
「それもあったけど…まあいいや、ここでちゃんと聴いてる訳だし。」

本当はすぐにでも運動場に行って茶渡くんの応援をしなくちゃいけないのに、黒崎くんから離れられない我が儘な私。

「部長達も、さすがに帰っちゃったよね…写真、撮ってもらえばよかったかな。」

そして、あんなに着るのを躊躇っていたウェディングドレス姿を今更写真に収めてほしいなんて、なんて現金な私。

「ああ、写真なら撮られなくて正解だと思うぜ?って言うか、その…。」
言葉を躊躇う黒崎くん。不思議に思って私が顔を上げると、彼の手が私の頭を彼の胸板に再びぽふっと優しく押さえつけた。

「ふ、ふえ?」
「…記念に撮っておきたいなら、俺のケータイで今から撮るから。だからそのカッコは、他の誰にも見せるな。」
「く、黒崎くん…。」

身体中が、かあっと熱くなる。
私、黒崎くんの「特別」になれた…って、そう自惚れても、いいのかな…?

「たつき達には、2度目を見せてやればいいだろ?」
「2度目?」

黒崎くんの腕の中で首を傾げる私の耳元で、黒崎くんが「笑うなよ」と小さく囁いた。

「気が早いのは解ってるけど…2度目は、いつかきっと、俺が着せてやるから。」
「…?う、うん…。」

初めは黒崎くんの言葉の意味がよく解らなくて、曖昧な返事を返したけれど。
しばらくして、漸く意味を理解した瞬間、また涙が溢れて止まらなくなった。



それはきっと、女の子の夢。
優しく微笑む大切な人の隣で、ウェディングドレスを身に纏うこと。

そんな夢を、あなたが「見てもいいよ」って、笑って許してくれる。

これからも、ずっと、ずっと大好きで大切な、優しいオレンジ色の人…。








《あとがき》

記念すべき(←勝手に)10作目ということで、ここは一つ一護さんに男らしく告白でもしてもらおうじゃあないか!…と書き始めた作品です。でも告白シーン難しすぎて挫折しましたがね…(泣)。

当初はウェディングドレスを着た織姫が男の子達に追い回されて一護がイライラする展開の予定でしたが、まあそれは「7cm」でやってしまったので、今回みたいなお話になりました。

織姫視点なので当然織→一なのですが、ちゃっかり一→織要素も入っておりますので、そっちの視点でもお楽しみ下さい(笑)。この話も一護side作ろうかなあ…。

それではここまで読んで下さりありがとうございました!




(2012.11.05)
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