きっと2度目は






私は、スカートの裾を持ち上げて、時々よろけながらも何とか階段をかけ上がった。


そして、辿り着いたのは…屋上。


扉を開けたら、やっぱりそこには誰もいなくて。
遥か下、運動場から微かに聞こえてくるのは、後夜祭の準備をする人達や、それを待っている人達の声かな。

しんとした空気の中、ひんやりとした風が、ここまで走ってきて火照っている私の頬を撫でる。

視線を挙げれば、薄暗い空に微かに光る星達。


私は目を閉じると、空気を思い切り吸い込んで、空に向かって精一杯の声で叫んだ。

「お兄ちゃん、見える~?!妹の、ウェディングドレス姿ですよ~!!」

…私の声は、夜空に吸い込まれるように消えていった。

当然、返事なんて返ってはこないけれど。
きらきらと瞬く星。お兄ちゃんが「ちゃんと見てるよ」って言ってくれてる気がして。

じわっと浮かんでくる熱いものを堪えて、私は夜空を見上げた。



本当は、着るつもりなんてなかった。

…だって、今日沢山の女の子達がドレスを身に纏う姿を見て、気がついてしまったから。
女の子が幸せな気持ちになれるのは、ウェディングドレスを着るからじゃない。

ウェディングドレスを着たときに、側で笑ってくれる大切な人がいるから。
ウェディングドレスを着たときに、幸せな未来を心に描けるからなんだ…って。


ぽろり、零れた涙を手で拭う。



私は、多分これからもずっとずっと黒崎くんが好きだと思う。

けれど、黒崎くんが私を選ぶことは、きっとない。
黒崎くんがいつか「たった1人」に選ぶ人は、多分私じゃなくて…。


私は黒崎くんしか好きになれなくて、でも黒崎くんとは結ばれないから。

きゅうっ…と、胸が痛む。
こんなに苦しくて、切なくて。
なのにどうしても手放せない、大切な大切なキモチ。

「…えへへ、ごめんね。ドレスだって、せっかくならもっと幸せな気持ちで着てほしいよね…。」

それでも、きっとウェディングドレスなんて着ることはもうないだろうから、今日こうしてお兄ちゃんに見せることができたのは、妹としてよかったのかもしれないな…。
そう前向きに無理矢理思考を転換して、私は涙をぐいっと拭いた。

「さ、お兄ちゃんにもドレス姿を見せられたことだし、そろそろ戻らなくちゃ。」

パンパンっと両手で自分の頬を叩く。
いつもの元気な私に戻って、部長達のところへ行かなくちゃ。

「よし、大丈夫!」

自分に言い聞かせる様にそう1人で呟いたそのとき、屋上のドアがギギィッ…と低い音を立てて静かに開いた。


「…井上…?」
「く、黒崎…くん…?」

驚いて、言葉を失う私。

そこにびっくりした様な顔で立っていたのは、ついさっきまで心に想い描いていた、大好きなオレンジ色の人だった…。




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