きっと2度目は
そうして、手芸部の企画は大盛況に終わり、文化祭も運動場での後夜祭を残すのみとなった。
「やったねー!大成功!!」
手芸部の皆で、ハイタッチしあって、喜びを分かち合って。
粗方の片付けを終え、一息をついていたら、部長が私に声をかけてきた。
「ねえ、ヒメちゃん。最後にウェディングドレス、着てみない?」
「え、ええっ?!」
「だって、部員でまだ着ていないのヒメちゃんだけよ。絶対に似合うのに。」
最後の片付けまで残っていた数人の部員達が、私達の会話を聞きつけて取り囲む。
「そうよ、あんなに頑張って作ったんだもん、一回ぐらい着なきゃ!」
「こんなチャンス、滅多にないよ!」
口々にそう言われ、それでも迷っている私の手を部長がぐっと引っ張る。
「ああっ、もう!ほら、着替えるよ!私がデザインしたドレス、そんなに不満?」
「ち、ちちち違います!そういう訳じゃ…!」
慌てて首を振る私に、部長はにまっと笑った。
「じゃ、着てみよう。ね?」
「…は、はい…。」
結局、私はドレスを着ることになった。
「…すごい、井上先輩、超キレイ!!」「結婚情報誌のモデルみたいだよね!」
「ね、ね、ここまで来たらメイクもしちゃおう!」
「いいね、それ!」
「ねえ、ティアラどこ?」
…もう鏡を片付けてしまったから、自分が今どんな風なのか分からなくて、ただ言われるがままに立ったり座ったりするしかない私。
それでも周りを囲む仲間達はきゃあきゃあととっても楽しそうに、私を飾っていく。
そして。
「でーきた!!お嫁さんヒメちゃん完成ー!!」
満足気な部長の声に、部員達がパチパチと拍手する。
なのに肝心の私は、どう反応したらいいのか解らなくて。
「あ、ありがとう…。」
取って付けたようなお礼しか、返せなかった。
困った様に部長が笑う。
「なんで、そんなぼーっとしてるの?もっと嬉しそうにしてよ~。」
「それが、その…私、自分がどうなってるのか解らなくて…。」
申し訳ないなあと思いながらそう答えると、部長の横にいた副部長兼会計の眼鏡がキラーンと光った。
「…写真ね。」
「…はい?」
「写真撮らなきゃ!ヒメちゃんの記念写真!そうしたら後からゆっくり見れるでしょ?」「え?え?」
「ついでに焼き増しして男子共に売りさばけば、部費の足しに…!」
最後の方の言葉がよく聞き取れなかったけれど、副部長は鞄をごそごそと漁りに行ってしまって聞き返せない。
「ああっ!カメラを教室に忘れて来たみたいっ!待っててね、取ってくるから!」
「あ、じゃあ私も写メ撮りたいからケータイ取りに行く!」
「私もっ!」
みんな、口々にそう叫んで私を置いてきぼりにしたまま、バタバタと走って行ってしまった。
「あ、あの…。」
ぽつんと1人、部屋に取り残された私。
ど、どうしよう…。
けれど、しばらく考えた後、私はふと1つのことを思い付いた。
…1人、私のウェディングドレス姿を見せたい人がいる。
私は皆が戻ってくる前に、と急いで教室を飛び出した。
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