きっと2度目は
…文化祭当日。
色々な部活が喫茶店やミニコンサートなどの出店を開いている中で、私達手芸部も教室を一つ借りきって作品展示をしていた。
私は午後から手芸部の教室にいる係だった。
そろそろ午前中の係の子と交代しなくちゃ、と手芸部の教室を訪れると、かなりの盛況ぶり。
「思ったよりも、沢山来てくれてるね!」
嬉しくなって、私は午前中に受付の係だった子にこそっと話しかけた。
「でしょ?やっぱり、あの特別企画が大当たりだったみたい!」
彼女が指を指す先、教室の一角には、10人以上が列を作っている。
「ずっと、あの状態だからね。受付も大変だよ。じゃあ、後は宜しくね!」
「うん!お任せあれ。」
午前中の係だった彼女とハイタッチして、私は受付の係を引き継いだ。
私が受付になって、少し経った頃。
「井上さーん!来ましたよ~!」
「うるさいですよ、浅野さん。」
浅野くんが教室に飛び込んで来た。その後ろには小島くん。
…そして。
「…よう。」
大好きな黒崎くんが、照れ臭そうに片手を上げて入って来た。本当に来てくれた…しかも私が受付をしてる時間に!
偶然なんだろうけど、でも嬉しい…!
「あ、ありがとう…。」
「いや、約束したしな…。」
私の顔、ちゃんと普通にできているかな…そんなことを思いながら、黒崎くんとお話していたら。
「おお、井上さん!あれはウェディングドレスじゃないですか?!」
浅野くんが部屋の一角にある人だかりに気がついた。
そう、今年の特別企画はこれ。
ウェディングドレスの展示、しかも希望者は実際に試着して写真を撮れるっていう企画だったの。
黒崎くんや小島くんの視線もそのコーナーに注目してる。
その時ちょうど、試着を希望した女の子が、ドレスを着て部屋の隅をカーテンで覆って作った試着室から出てきた。
とっても幸せそうに笑う、ウェディングドレスを着た女の子。
隣で恥ずかしそうに笑っているのは、多分彼氏さんかな。
受付係になってから何度も見ているけれど、喜ぶ女の子達を見て、私も何だか幸せな気持ちになっていた。
頑張って作ってよかったな…って、何度も思ったの。
「よくあんな本格的なドレス、作れたよね。」
純白のドレスは、ふんわりとしたAラインを描いていて、ゆったりとした幾重ものドレープがとても綺麗で。
胸元はハート型にカットされていて、そこにはベビーピンクの小さなコサージュが縁取るように添えられている。
「あ、今年の部長さんはね、被服やデザインが進路でね。そっちの知識が豊富な人なの!」
「なるほどね~。」
感心したように小島くんがそう言った。
小島くんも、彼女さんに着させてあげたいって、思ったのかな…?
「ところで井上さんは、もうドレス着たのかな?」
小島くんの後ろからひょこっと出てきた浅野くんの台詞に、私は内心どきっとしながら答える。
「う、ううん。部活での試着の時は他の部員の子が交代で着てたから…。」
「ううっ、勿体無い!井上さんにあのドレス、想像しただけで眩しすぎる…イテッ!一護、ひどいぃ~。」
浅野くんが脇腹を押さえて唸ってる。偶然、黒崎くんの肘が入っちゃったみたい…。大丈夫かな?
「なあ、井上。これ売ってんのか?」
黒崎くんに話しかけられて、私ははっと受付の仕事を思い出した。
黒崎くんが指差す受付のテーブルには、手芸部員で作ったアクセサリーやストラップが並べてあって。
本当はこれを売るのも受付の仕事だったの。
「は、はいっ!勿論、売ってますです!」
黒崎くんは顎に手を当ててじっとそれを眺めて、ふと思い付いたようにぽそりと言った。
「この中に、井上が作ったのもあるのか?」
「え、え?あるよ、えっとね、これと、これと、これと…。」
私が指差す先を黙ったまま目で追っていた黒崎くんは、私が作ったストラップばかりを3つ選んで、手に取った。
「…これ、買うよ。」
「え、ええっ?!いいの?!」
「遊子たちへの土産にするよ。」
「…ありがとう…。」
涙が出そうなぐらい嬉しくて。
涙腺が緩むのを堪えながら、私は3つのストラップを紙袋に入れて代金と引き換えに黒崎くんに手渡した。
優しい、本当に優しい黒崎くん。
私は今日、また黒崎くんを昨日よりもっとずっと好きになってしまいました…。
.