未来予想図






《未来予想図エピローグ・一護side》
 



青い空の下、俺はいつもと同じように屋上で水色やチャド、啓吾と昼メシを食べていた。
まあ、いつもと違うのは、啓吾が激しく落ち込んでいてやけに静かだってことぐらいだ。

「…なんだ、啓吾のあの見事なへこみっぷりは?」

ぼそぼそと不味そうに飯を口へ運ぶ啓吾に、俺はパンをかじりながらそう呟いた。

「ああ、一応、失恋かな?一目惚れしたオネエサマに、こっぴどく振られたんだよね。」

俺は水色の言葉に「またか」と素直に納得した。まあ、立ち直りのスピードは異常に早い啓吾のこと、すぐに元通りになるんだろう…と思いながら、牛乳をひと啜りしたら。

「…一護は、幸せそうだね。」
「ぶっ!」

水色の囁きに、俺は加えていたストローから牛乳を吹き出した。

「同じ夜に、フラれたヒトもいれば、めでたく両想いになったヒトもいる訳で…人生色々だよね、ほんと。」

ゲホゲホと激しく咳き込む俺の横で、わざとらしく肩を竦める水色。

「な、なんで…!」

苦しい中涙目でそう言う俺に、水色はにっこりと笑う。

「だってさ、一護のケータイのストラップ。」

水色の指差す先は、俺の胸ポケットに入っているケータイ。

…確かに、俺は井上の作ったストラップをケータイに付けていた。
なんて言うか、夕べの出来事が夢なんじゃないかって自分で自分を疑って しまいそうで。
後夜祭の後、井上を自宅まで送った帰り道、夜道でこっそりケータイにストラップを付けたんだ。
黒と白とグレーのコントラストがマットな感じで、俺のケータイによく似合った。

…けれど、水色との契約は「二人で後夜祭を見たらストラップを付ける」だったはず。
告白したことや両想いになれたことなど、一言も触れていないはずなのに…。
こいつ、読心術でも使えるんじゃねぇの?

そんな俺の心の声すら聞き取ったかの様に、水色が続ける。

「まあ、今回はボクだけが気付いた訳じゃないと思うよ。多分今頃、有沢さんあたりも勘づいてるんじゃないかな。井上さん、嘘がつけないタイプだしね。」

井上も、今頃何処かで昼飯を食べながら、こんな風にたつき達にあれこれ尋問を受けているのだろうか。
特にたつきは、井上のことに関しては人一倍鋭いからな…。

「けど、いいんじゃない?井上さん人気あるし、ちゃんとアピールしておくのは必要なことだと思うよ。」

確かに、井上はモテる。何も後ろめたいことはないし、堂々と付き合い出したと宣言したっていい。
が、昨日の今日両想いになったばかり。まだもうしばらくは秘密にしておきたかった気持ちも当然あって。

勿論その理由の大部分は気恥ずかしさだけど。
恋愛初心者の俺としては、もう少し自分に余裕と自信が出来てから、堂々と告知したかったのだが…。

「…一護。」

突然、今まで黙ってメシを食っていたチャドが、俺と水色の会話に入ってきた。

「お、おう、なんだ?」
「夕べの後夜祭の、俺のバンド演奏だが…。」
「あ、ああ!良かったぜ、あの曲!」

良かった、話題が上手くそれそうだ。これで水色の追求から逃れられる…そう内心ほっとしながら俺はその呼び掛けに答える。

…しかし。

「俺が見た限り、会場にはいなかった様だが、どこで聴いてくれていたんだ?」
「…あ?ああ、実は、その、色々あって、屋上で聴いてたんだ。でも、ちゃんと聴いてたから。」
「…何で屋上なんだ?」
「…へ?」
「…何があったんだ?」
「…いや、その…。」

ずいっとまえのめりになって俺に返答を迫るチャド。
表情はいつものように前髪で隠れてまるで読めないが。

…あれ、もしかしてチャド、バンド演奏を見に行かなかったこと怒ってるのか?
それとも、意外にもこの話題に水色以上に食いついて来てるのか?

…どちらにしろ、俺にとって具合が悪いことに代わりはない。

「…ム、詳しい経緯は、どうなんだ?」
「一護、この際全部暴露しちゃいなよ。」

静かな圧力をかけてくるチャドと、裏のある微笑みで迫る水色。

…昼休みが終わるまで、あと20分。
俺は果たして耐えきれるのだろうか…。




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