きっと2度目は







それは多分、女の子の夢。


《きっと2度目は》



もうすぐ文化祭。
手芸部の私にとっては、一年でいちばん忙しくて、いちばん楽しい時。

「織姫、今日も部活?」
「うん!たつきちゃんももうすぐ試合なんだよね。頑張ってね!」

教室で急いで荷物をしまいながら、私はたつきちゃんにそう言った。
だって一秒でも早く部活に行って、作品の続きを作りたいから。

「そのアタシより最近帰りが遅いみたいじゃない?気をつけてよ、織姫。」

たつきちゃんが呆れたように笑って、教室を飛び出す私を見送ってくれた。

「はーい、大丈夫です!…きゃっ!」

「大丈夫」と言いながら、早速教室のドアのレールに躓いた私。
反射的に目をぎゅっと閉じて床にぶつかる衝撃に備えたけれど、私の身体は倒れることはなく。
代わりに感じたのは、身体を支えてくれる、逞しい腕の感触だった。

そろり、目を開けるとその腕の主は。
「く、く、黒崎くん!」「…相変わらず危なっかしいなあ…。」

大好きな彼の腕に抱き止められたと知って、一気に思考回路がショート寸前の私。「や、あの、ごごごめんなさいっ!その、油断大敵、前方不注意でしたっ!」
「…いや、よくわかんねぇけど…別にいいって。」

黒崎くんが私の鞄を拾って目の前に差し出してくれる。
私はそれを恥ずかしさいっぱいで受け取った。

ああ、また格好悪いところを見られちゃったなあ…。

「何か井上、去年よりも随分忙しそうだな。」
「え?あ、うん!実は今年は特別企画がありまして…。」
「ふーん…。」

私はそう答えながら、心の中で自分を叱咤激励した。
これは、神様がくれたチャンスかも知れない。
言うなら今しかない。
私は、声が震えるのを必死で隠した。

「あ、あの、よ、よかったら…文化祭の日、見に来てね…?」

い、言えた…!

ちらっと黒崎くんの顔を見上げたら、そっぽを向いていて表情は解らなかったけれど。

「…おう、分かった…。」

ぼそっと低い声で、そう答えてくれた。

「…で、井上は急いでたんじゃないのか?」
「ああっ、そうでした!部活に行って来ます!」
黒崎くんにびしっと敬礼して、慌てて踵を返す私。
だってきっと今の私の顔はにやけていて、黒崎くんにとても見せられないから。

優しい黒崎くん。
手芸なんて、全然興味ないはずなのに。
それでも、「分かった」って言ってくれた…。

嬉しくて嬉しくて浮かんでくる笑みが止められないまま、私は家庭科室までの廊下を走っていった。

文化祭まであと少し。
どうしても完成させたい作品が、今年はあるのです…。





.
1/7ページ
スキ