IF〜ふたりぐらし〜






「…なぁ、結局今日はどうしようか?どっか、近場で行きたい場所とかあるか?」

遠くへ出掛けるのは無理でも、せっかくの休日。
どこかへ嫁さんを連れ出したくて、彼女の柔らかな髪を撫でながらそう問い掛けた。

けれど、織姫は俺の肩に頭を委ねたまま、静かに首を横に振る。

「ううん…。別にね、お出かけなんてどこでもいいし、いっそしなくてもいいの。一護くんがずっと一緒にいてくれるなら、それだけで私には贅沢な1日だから。」

その言葉に思わず織姫を見れば、彼女もまた俺の顔を見て「えへへ」と照れ臭そうに笑った。

「だから、今この瞬間も、私にはスペシャルな時間なのです!」

…本当に、俺の嫁さんは。
欲がなくて、謙虚で。
…そしてついで言うなら、旦那を喜ばせるのが上手い。
…多分、自覚はないんだろうけど。

「…そうだな、今日1日オマエを完全独占ってのも悪くないかもな…。」
「わわっ!い、一護くん?!」

俺は織姫に見えない様に小さく笑うと、彼女をそのままソファに押し倒した。

「い、一護くん…?」

突然のことにきょとんとしている嫁さんは、俺に組み敷かれたこの状況で尚、俺の意図が読み取れないらしい。
俺は、戸惑っている織姫の唇に自分のそれをそっと押し当てた。
唇が重なる瞬間、俺の意図をやっと理解したのか、それとも条件反射なのか。
嫁さんが慌てた様にぎゅっと目を閉じたのが解って、心の中で笑ってしまった。

それでも俺は角度を変え、啄む様なキスを幾度となく繰り返して。

織姫の唇が何かを発しようと薄く開いた瞬間、俺はその隙間から舌をするりと差し入れた。

「…んっ?!ん、んぅっ…!」

俺の腕の中、途端に固くなる嫁さんの身体。
けれど俺の彼女を求める欲求は緩むことなく、深く唇を重ねたまま、俺の手は彼女の着ているブラウスの中に容赦なく侵入を開始する。

「…っふ、んぅっ…!」

息を次ぐ間、僅かに漏れる彼女の呼吸とも喘ぎともつかない声は、一層俺を煽る。

それでも、俺の手と舌の動きにぴくんぴくんと小さく反応しながら、俺の肩にしがみつくことで精一杯の抵抗の意を示す織姫に、俺はゆっくりと彼女の唇を解放した。

既に潤んでいる瞳で、おろおろしながら俺を見上げる嫁さん。
艶っぽさとあどけなさがアンバランスに同居した視線が、俺をガツンと刺激する。

「…っ!い、一護くん、な、何するの…?」「何って、ナニに決まってるだろ。」

そう言ってにっと意地悪く笑って見せれば、既に赤みを帯びていた織姫の顔が爆発したかの様に更に赤くなる。

「こ、ここで?!今から?!そ、それはっ…きゃんっ!」

取り乱す織姫の言葉の末尾は、ブラウスの下に潜ったままだった俺の手が彼女の豊かな膨らみを刺激したことで乱された。

…解ってるんだ、本当は。

とにかく真面目で奥手な嫁さんは、「夜にベッドで」というひどく一般的なシチュエーションでの行為に漸く慣れてきたところで。

ソファの上、しかもこんな明るいところで…なんて彼女の良識外もいいところなんだろう。

「…今日は、外出はやめた。1日中、俺がオマエを独占するから。」
「ど、独占ってそういう意味じゃ…!」

二人でのんびり散歩も悪くはないけれど、外は人目がある。
普段新婚らしい生活ができていないんだから、今日はいっそ家の中で1日中イチャイチャしてるのも、それはそれで有効な休日利用なのかもな…なんて。

事実、俺に組み敷かれ熟れた林檎みたいに真っ赤な顔でおろおろする織姫は、色んな意味で「食べ頃」だ。

…けれど。
「あ、も、もしかして一護くん、赤ちゃんが欲しくなったとか?」

すっかり織姫を頂く気満々だった俺に対し、彼女の口から飛び出したのは、あまりに予想外の発言で。
ブラウスをたくしあげて行為を続行しようとする俺の手は、思わずぴたりと止まった。

「…オマエは、欲しいのか?」

ズルいと知りながらも逆に問い掛ける俺に、彼女は困った様に「うーん」と小さく唸る。

「…いつかは、って思ってるけど…その…一護くんが欲しいなら…いつでもいいよ?」

上目遣いで俺の顔を見上げながらそう言う嫁さんは、やけにいじらしく見えて。

…ああ、やっぱり。

そりゃ、俺だっていつかは…って思っているけど。
けれど、もう少しだけ。

…この可愛い嫁さんを、俺だけが独占できる時間が欲しい。

もっと、二人で色んなところへ出掛けて、色んな話をして。
二人でしか出来ないことを沢山して、俺の独占欲がもう少し満たされたら。

…そのときは織姫の世界の中心を子供に取られても、笑っていられると思うから…。

嫁さんってのは、大変だな、とつくづく思う。

近い将来、自分の子供を育てながら、一緒にこんなデカイ子供の相手もしなければならないのだから…。



.
4/5ページ
スキ