IF〜ごにんぐらし〜
…そうして、俺が慌てて部屋に戻れば。
俺の不安は、悲しいかな見事に的中。
ベッドの上、織姫は既に眠り姫になっていた。
「ああ…遅かったか…。」
再び、がっくりと肩を落とす俺。
ギシッと嫁さんの横にわざと音を立てて腰を下ろすも、すやすやと寝息を立てる織姫はぴくりとも反応しない。
まあ、そりゃそうだろう。
今日は週末、1週間の仕事の疲れが貯まっていただろうし、妹達と折半しているとはいえ家事もこなしているのだから。
…けれど。
「俺のこの欲求はどうしてくれるんだよ、オイ…。」
ひょっとして目を覚ましてはくれないか…と淡い期待を抱きつつ、眠る織姫の髪を幾度も撫でる。
「う…ん…。」
くすぐったそうに、僅かに唇に笑みをたたえる嫁さん。
幸せそうなその寝顔は、成熟した身体とは反比例してあまりにもあどけなく、俺の欲望は白旗を振るしかなかった。
「…はあ…。」
深い溜め息と共に、嫁さんの横にごろりと横になる。
…黒崎家に織姫が同居することを快く受け入れてくれて、実際上手くやってくれている妹達や親父には、正直感謝している。
織姫にだって、黒崎家の嫁として立派に務めを果たしてくれて、有り難い気持ちでいっぱいだ。
…しかし、しかしだ。
この同居生活で、いちばん欲求不満になっているのは、その実この俺なんじゃないだろうか?
ふと、織姫の寝顔に先ほど見たCMの赤ん坊が重なる。
「…子ども、ねぇ…。」
織姫がどう思っているのかは解らないけれど。
妹達や親父は早く孫が見たいなどと冗談混じりに話していたが、俺としては子どもなんて当分考えられない。
…正直織姫はもうしばらく俺が独占したいというか、まだまだ新婚気分を味わっていたい。
せっかく遠距離恋愛を乗り越えて結婚したというのに、全っ然嫁さんと夫婦らしいアレコレができていないのだから。
いや、アレコレって、夫婦で旅行とか、そういうのも込みだけどよ、勿論…。
「…ああ、くそっ!」
俺は、ケータイを手に取るとアラームを5時にセットし、枕の下に隠すようにしまい込んだ。
このもやもやは、やっぱり織姫を抱かない限り消えそうもないから。
…夜がダメなら、次のチャンスは早朝ってことで。
俺は明日の早起きに備えて、今夜はさっさと眠ることにした。
…こんな生活が続くなら、黒崎家を二世帯住宅に建て替えようか…って、何年後の話だよ、全く…。
(2013.02.07)