7cm






「じゃ、じゃあ、一緒に返しに行くか…?」
「はい!お供いたします!」

下心を押し隠してそう言う俺に、井上はにっこりと笑って答えた。

よし、次のデートの約束は取り付けた…内心ガッツポーズを取る俺の耳に、もじもじとした井上の声が聞こえる。

「そ、それでね、今日見たDVDの第1弾と2弾も見たいなあって思って…レンタルの会員証っていくらぐらいで作れるの?」
「あ?別にわざわざ会員証作らなくても、俺が借りてやるよ。」
「ほ、本当?!いいの?!」

ぱあっと花が開くように喜ぶ井上。

…あれ、上手くいけばこれであと2回は今日みたいなデートが出来るのか?
高々年間費200円のレンタルの会員証が、今の俺にはゴールドカードに見えた。

「あ、あとね、第4弾がもしあったら、その時は映画館で見てみたいなあって。」
「ああ、もう制作に入ってるらしいから、第4弾もそのうちあるだろ。…い、一緒に行くか?」
「うん!」

子供みたいに頷く井上。
こ、これで映画館デートも確約された…ってことでいいのか?!

「わーい、楽しみだなあ。ありがとう、黒崎くん!次はもっと色んなパン用意しておくね!」
「大袈裟だな、井上は。つーか、パンは井上の方が食べてるだろ。」

そうカッコつけて言いながら、内心浮かれまくっている俺。
トントン拍子にデートの予定が決まっていって、もう今日はこれで十分な気分だった。



…今日の俺のミッション「井上と正式にデートできる仲になること」は、俺の度胸と準備不足により今回は未遂に終わりそうだ。

けれど、チャンスは作った。
次のデートか、その次のデートか、その次の次のデートぐらいには、必ずミッション達成…の予定。

…そう、近いうちに、きっと…。

悪かったな、ヘタレで。




(2012.11.28)
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