JEWEL



…そうして、暫くお互いに無言の時が続く。

何となく、井上には派手なデザインや大きな石が入った物より、シンプルで繊細なデザインの方が似合う気がして、そういった指輪を探すけれど。

ショーケースに飾られている指輪達は、1つ1つ似ている様でいて、その実どれも色や形が微妙に違う。

実際、こうして選ぼうとすると難しいものなんだな…なんて思いながら視線を上下左右に走らせていると、ふと俺の目に止まった指輪があった。

オープンハートの中に小さな石が輝いていて、全体的に華奢なフォルム、色調は多分ピンクゴールドってやつ。

「…これ…。」

直感的に井上に似合いそうな気がしてちらりと隣を見れば、井上の視線の先も俺と同じ辺りを見ている。

「…井上、もしかしてこれが欲しいのか?」

そう言ってその指輪を差す俺に、井上は慌てて首を振った。

「あ、うん、えっと、ち、違うよ?その、何となく見てただけで…!」
「…井上、オマエ本当に嘘つくの下手くそだな。」

…多分、俺が気になっている指輪と同じ物を井上も気にしている。
けれど、それ以上にその指輪に付いている値札の数字を気にして、井上は遠慮したのだ。
「お気に召された物は、ありましたか?」

…そんな井上とのやり取りを見ていたのか、ショーケースの前を長いこと陣取っている俺達に、店員がにこやかに声をかけてきた。

「実際、指にはめていただくとまた印象が違いますから。よろしければ、気になったものをお取りしますよ。」
「じゃあ、これを。」
「く、黒崎くん!」

慌てる井上を横目に、俺はその指輪をケースから出してもらった。

「別に、つけるだけでもいいだろ?」
「そ、そうだけど…。」

店員から困った様な顔で指輪を受け取った井上は、おずおずと指輪をはめようとしてぴたりと動きを止めると、俺の顔を上目遣いで見上げる。

「…どした?」
「あ、あのね、黒崎くん。…薬指にはめても、いい?」

…ああもう、どうしてここまで遠慮するかな、コイツは。

「…当然!」

そう強く言い切る俺に、井上が漸くはにかんだ様な笑顔を見せる。
そうして、井上がゆっくりと右手の薬指にその指輪をはめれば、サイズも調度よかったらしく、吸い込まれる様にしっくりと井上の指に収まった。

「…わ…ぁ…!可愛い…!」

そう思わず漏れた井上の声に、店員がすかさず反応する。
「よくお似合いですよ。そのデザインだと指が長く細く見えますし。」

店員のコメントはまぁ商売用なんだろうが、確かにその指輪は井上の薬指に本当に馴染んでいて、それ以外の商品の試着なんて必要ないと思えるほどで。
井上の表情からも、その指輪が気に入ったことがすぐに解った。

「…それでいいんじゃねぇ?」
「えっ、えっ、でも…た、高いよ…。」

相変わらず値段を気にする井上は、店員に聞こえないよう小さな声でそう俺に耳打ちする。

「だから、俺がいいって言ってるんだから、問題ないだろう?サイズも調度良さそうだし。」
「…で、でも…。」
「あのな、せっかくの指輪だぞ。どうせならもっと嬉しそうに受け取ってくれよ。」

そう俺に言われてはっとしたように目を見開いた井上の顔が、ふわりと柔らかな笑顔に変わった。

「そっか…そうだね、うん。じゃあ…おねだりしても、いいですか?黒崎くん…。」
「おう。ねだれ。」

にかっと笑った俺に、井上もまたくすくすと笑う。

「…じゃあ、これを。」「はい、ありがとうございます。指輪、どうされますか?そのままつけて行かれますか?」
「は、はい!勿論です!」
その気合いの入った井上の返事に、今度は店員がくすくすと笑う。

「…声でかい。」
「うぅ、つい…。」

井上は自分の声の大きさに今更の様に顔を赤くしていたけれど。
…それでも、その表情は俺の目から見ても本当に幸せそうだったから、それだけで俺は満足で。

そうして俺は会計を済まし、漸く目的を果たしたのだった。







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