Is this love? 〜織姫sideエピソード〜




…しばらくして、私の携帯電話に再び着信ランプが灯った。

予想した通り、メールの差出人は黒崎くん。

…けれど、メールを開ければその内容は私の予想外で。

『来週以降は予定が入るかもしれないから、たつきがいなくても今週の土曜日がいい。荷物なら俺だけでも持てると思うから。』

その携帯電話の画面を見ながら、私は自分の鼓動が速くなっていくのを止められなかった。

…また、黒崎くんと二人きりで…?

胸が、きゅううっと締め付けられる。

…痛い。

…こんなに胸が痛いのに、それでも心のどこかで喜んでる浅ましい自分がいる。

後から来る苦しさも虚しさも知っている癖に、一瞬の幸せを望む自分がいる。

だって、逢いたいの。

例え黒崎くんが私を嫌いでも、やっぱり逢いたいの。
直ぐに壊れる偽物だって解っていても、それでもいいから束の間の夢を見たいの。

「ごめんね…黒崎くん…。でも…。」


…半年間、黒崎くんと離れて、思い知らされたの。

私は三年間、ずっと貴方の背中を道しるべに歩いて来たんだ…って。

沢山の大切なものを護るため、いつも強く真っ直ぐ前を向いていた黒崎くんの背中。結局、その背中に追い付くことは出来なかったけれど、少しでも追い付こうとがむしゃらに頑張ることで、私は私でいられたんだ。

卒業して、フラれて、黒崎くんの背中を見失って。

…そうして私は、出口のない迷路にはまったかのように、この想いから離れられないまま…。

「…でも…やっぱり、黒崎くんが…好き…。」




…結局私は黒崎くんに、「今週末に買い物に行くことにしましょう」とメールを返した。

そして、ゆっくりと携帯電話を閉じて、もう一度窓から四角い星空を見上げる。

…神様、嘘と偽りで縛られた私に、こんなことを願う権利なんてないこと、知っています。

…でも、お願いです。
あともう少しだけ、私に時間を下さい。

半年間動けなかったこの場所から、動きだせる様になるまで。

きっと、これは神様がくれたチャンスだと信じたいから。
…あと少しだけ、黒崎くんの側にいられたら、きっと出口を見つけられる気がするから…。

そう祈りながら見上げる星の瞬きは、少し滲んで見えた…。





土曜日、買い出しの日。

私はたつきちゃんに言われた通りに、チェック地のミニワンピースを選んで着た。
少し前に、たつきちゃんとウィンドウショッピングをしていた時に見つけたそのワンピースは、レース地のジレとコーディネートされていて、とっても可愛くて。

店員さんに勧められて試着してみたら、たつきちゃんは「めちゃくちゃ似合ってるから、いつか一護とデートするときの為に買いなさい!」とか言い出して。

…そんなこと有り得ないのに、たつきちゃんの押しの強さに負けて買ってしまったんだよね…。

「まさか…本当に黒崎くんの前で着る日が来るなんて…。」

鏡の中の自分に、思わずそう呟いて。
ピンクのリップを塗って、私なりに精一杯の背伸びをしてみた。

黒崎くんが、女の子を見た目で判断したりする人じゃないことは知っているけど。
大人っぽくなった黒崎くんに、少しでも釣り合う女の子になりたいから…。




部屋を出る前にキッチンの隅に目をやれば、そこにはバリスタとペアのマグカップ。

昨日も黒崎くんとメールを交わして、買った景品は私の部屋で袋に詰めて同窓会までそのまま預かることに決めた。

…それはつまり、黒崎くんが今日もここに来るということ。
もし、黒崎くんがもう一度、あのバリスタで淹れた珈琲をあのマグカップで飲んでくれて、「美味しい」って笑ってくれたら。

…そうしたら私は、きっと今より顔を上げて歩いていけそうな気がするの…。


「…いけない!もうこんな時間?!」

本当は早めに待ち合わせ場所に行って気持ちを整理するつもりだったのに、緊張からか夕べはなかなか寝付けなくて、結局今朝は寝坊してしまって。

私は鞄を手に、慌ててブーツに脚を通した。

そして、勢いそのままに部屋を飛び出そうとしたけれど。
一瞬立ち止まった私は、ドアノブを握り締めたまま、一度だけゆっくり深呼吸をした。

…神様、この祈りが届くなら、もう一生我が儘は言いません。

だから、今日1日だけ私に黒崎くんの傍にいる資格をください。

この、黒崎くんとの最初で最後のデートの思い出を、私がこれからを生きる力に変えていける様に…。

「…よし、行こう。」

私はそう呟いて、ゆっくりと部屋のドアを開けたー。






(2013.04.10)
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