Is this love?〜エピローグ〜



《Is this LOVE?》エピローグ



「…うぉっ、さみいっ!」
「…うわぁ、雪でも降りそうな空だね。」

同窓会は俺を冷やかす旧友達の声と共に無事(?)終了。
会場は旧友達の熱気で汗ばむほどだったが、一歩店の外へ出ればそこはやはり12月。
熱かった身体は冷たい空気によって一気にクールダウンした。

かつてのクラスメイトは親しかった奴らでそれぞれ次の店に繰り出そうとしていて。
「これからどうしようか」と井上に言葉を掛けようとした俺は、ニヤニヤと笑う友人達にあっという間に周りを囲まれた。

「…これから、二人でどこに行く気?」
「それより、二人のなれそめとかをじっくり聞きたいよね、みんな。」
「織姫、アタシにまで内緒だなんて、どういうこと?」

俺と井上を囃し立てる旧友達や、にんまりと笑う水色とたつきがじりじりと迫ってくる。

「…あ、えと、その…。」

たじたじとする井上。
…そして、俺が知っているこういう面倒くさい場面への対処法は、1つ。

「…行くぞ、井上!」
「ほ、ほぇっ?!わわっ、黒崎くん!」
「あ~!逃げた~!」

粉雪がちらつき始めた中、俺は井上の手を取ると逃げ出す様に走り出したのだった。


「た、ただいま~!」
「…あー、さみいっ…!」

井上がアパートの扉を開けると同時に俺達は中へ転がり込んだ。

「身体、すっかり冷えちゃったね。すぐに暖房入れるから、温まっていってね。」

井上のその言葉に、遠慮なくコートを脱いで腰を下ろす俺。
…って言うか、井上をアパートに送ってすぐ帰る、なんて優良男児になるつもりは欠片もなかったりするんだが。

「よかったら、温かいコーヒーでも飲んでいく?」
「おう、もらうよ。」

…あれ以来、週末が来る度に俺の為に活躍するバリスタ。
黒いマグカップも、勿論俺専用。

…この部屋に、少しずつ「俺」が馴染んでいく。

「はい、お待たせしました!」

白と黒のカップを持って井上がキッチンから戻ってくるスピードも、段々早くなってきた。

実は、俺の為に初めてバリスタを使った時は、不慣れな為勝手が解らず、かなり時間がかかっていたらしい。
…俺は気持ち的にそれどころじゃなくて、どれくらい時間がかかっていたかなんて覚えていないんだけど。

「ありがとな、井上。」

井上から黒いマグカップを受け取る。
井上も白いマグカップを手に、俺の横にちょこんと座った。
「今日は楽しかったね。時間があっという間に過ぎちゃった感じ。」

カフェオレを美味しそうに飲みながら、井上がクスクスと笑う。

「そうだ!このコも出してあげなきゃ!」

井上は思い出した様に鞄からごそごそと紙袋を取り出した。

テーブルにちょこんと置かれたそいつは、俺からは『ウケ狙い』、井上からは『正統派』と言われた微妙な顔の推定うさぎのぬいぐるみ。

幹事側でありながらビンゴに参加した井上が見事ゲットしたそいつは、お世辞にも可愛いとは言えないけれど。

二人で買い出しに行ったことや袋詰めしたこと、及びその間にあったイロイロなことが思い出されて、まぁ愛嬌がある顔だよな…なんて思ってしまう俺。

「越智先生も幸せそうで、よかったね!…あ、もう『越智』先生じゃなくなるのかな?」

まるで自分のことの様に嬉しそうに笑う辺りが井上らしくて、俺までつられて口元が緩んでいく。

「…でも、みんなにバレちゃったね。黒崎くん、よかった?」

遠慮がちにそう言う井上の頭を、俺はわしゃわしゃと撫でてやった。

「わひゃあっ!」
「いいも悪いも、別に井上のせいじゃないだろ。…水色には参ったけどな。」「う~。…でも、黒崎くんはこういくことってあんまり人に知られたくないタイプでしょう?」
乱れた髪を手櫛で直しながら、それでも俺を気遣う井上。

…確かに、付き合い出したことを暫くはたつきにも言わないでほしい、と言ったのは俺だ。勿論、大学のダチにもまだ言っていない。

「まあな。でも…。」
「でも?」

小首を傾げる井上の頭を、俺は再びわしゃわしゃと撫でた。

「わひゃっ!」
「…何でもねぇよ。」

不思議な気分なんだ。

確かに、何となく気恥ずかしいとか、からかわれるのが嫌だっていうのも単純にあるんだけど、それだけじゃない。

…井上とのことは、誰にも知られたくない、ずっと秘密にしておきたいような気分で。
そのくせ、同窓会の間、『井上は俺の彼女なんだ、いいだろ』って大声で叫んで自慢したいような衝動にかられたりして。

…多分、子供が何か宝物を見つけた時に、秘密の場所にこっそりそれを隠しておきながら、友達につい見せびらかしてしまう…そんな心境に近いんだと思う。

「もう~、髪がぐしゃぐしゃだよぅ…。」

ぷうっと頬を膨らませて髪を直す井上は何だか子供っぽいけれど。

…本当は、俺の方がずっとガキなんだろうな…


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