Is this love?
…12月下旬、同窓会当日。
予想以上の参加者の多さから、同窓会は小さなレストランを貸し切り、主賓の越智さん達以外は立食形式で行われた。
懐かしい顔が並ぶ中、手慣れた様子で司会をする水色とハイテンションでそれを邪魔…もとい補佐する啓吾。
一応幹事側の俺は、ビンゴの景品を運んだり、越智さん達へのプレゼントを運んだり…所謂縁の下の力持ちってやつに徹させてもらい。
井上やたつき達女子組は受付を担当した後、ドリンクのオーダーを取ったり料理の少ないテーブルに優先して次の料理を運んだり…と気を利かせて動いていた。
…つまり、適材適所ってやつ。
レストランの中央、越智さんは常に誰かに周りを囲まれていて、そこはかつての教室の様に賑やかだった。
その隣にいる旦那は、空座一高で最も堅物と評判だった数学教師。
一見越智さんとは正反対なタイプの様に思われたが、二人で並んでいればしっくりくるから不思議だ。
「はい、黒崎くん!」
会場の隅っこ、幹事用テーブルで談笑する越智さんや旧友達を眺めていた俺の元に駆け寄ってきた井上が、俺にアイスコーヒーを差し出した。
「もうラストオーダーなんだって。コーヒーでよかった?」「サンキュー。もうそんな時間なんだな。」
井上からグラスを受け取り、そのまま口へ運ぶ。
会場の熱気で火照った身体に、アイスコーヒーは心地よく染み込んだ。
井上は俺の左隣で、自分用に持ってきたオレンジジュースに嬉しそうに口を付ける。
そのグラスに添えられる右手の薬指には、オープンハートの指輪。
その輝きに俺の口元が思わず緩んだ。
…井上と想いが通じあった、次の日。
俺と井上は、駅前の雑貨屋に再び出かけた。
約束した通り指輪を買おうとする俺に、井上は「誕生日はもう過ぎたから」とか「お返しする物がないから」とか遠慮しまくって。
挙げ句に俺の懐事情を気にかけ、選ぶ指輪は子供の玩具みたいな値段のモノばかり。
確かに俺だって学生で高級なヤツはまだ買ってやれないし、井上は「黒崎くんからの贈り物なら値段なんて関係ない」って主張したけれど、それでも俺なりに誠意を見せたくて。
…そうして、二人で散々悩んで買った指輪は、それ以来ずっと肌身離さず付けてくれているらしい。
「…幸せそうだね、越智先生。」
「…だな。」
越智さんの方を見ながら、コーヒーをもう一口。
俺と井上はまだまだ恋愛初心者だから、どこか浮き足だったようなふわふわした心地から抜け出せないでいるけれど。
…いつかはあんな風に、俺と井上も二人でいることが『しっくり』来るといい…。
「なあ小島、また同窓会やってくれよ!」
「いいね、それ!次の同窓会はいつなの?小島くーん!」
宴も終焉を迎える頃、旧友の誰かがそう叫んだ。
「ん~?そうだねぇ…。」
俺に背を向けていた水色がそう言ってこちらを振り向くと、意味深に笑って見せる。
「……?」
俺が水色の意図を図れないまま、コーヒーを飲み干そうとグラスを傾けたその時。
水色はくるりと俺に背を向けると、かつてのクラスメイトに向かって高らかに言い放った。
「決めた!次の同窓会は、一護と井上さんの結婚式の二次会にしよう!」
「…ぶっ!!」
「きゃっ!く、黒崎くん!」
口に入れたコーヒーを盛大に吹き出す俺。
旧友達は一斉にどよめき、俺と井上を囃し立てる。
「黒崎ぃ、あんなに可愛がってやったのに、最後に美味しいとこ持っていかないでよね~。」
越智さんのそんなからかいにさえ、むせかえっている俺は言い返せず。
「ゲホッ、な、何で…?」
井上と付き合い出したことは誰にも話していないのに。
咳き込みながらも何とか疑問を声にする俺に、水色は満面の笑みを浮かべた。
「何でも何も、ずっと二人で見つめ合っててバレない方がおかしいでしょ?新婚の先生達に負けないラブラブオーラ出しまくりでさ…あ、一護は医大生だから、次の同窓会は5、6年後ってところでよろしくね、みんな~。」
涙目で苦しむ俺を無視し、爽やかに宣言する水色。
井上は真っ赤になっておろおろしながらも、とりあえず俺の背中を擦ってくれていた。
「5年も待てないなあ、もっと近いウチにやってくれねぇ?」
「あ、じゃあ一護に学生結婚してもらうってことで、3年後ぐらいでどう?」
「…だから何でそれが前提なんだよっ!」
漸くまともに喋れる様になった俺がそう叫ぶすぐ横、赤い顔で困った様に笑う井上は、それでも俺に寄り添ってくれていて。
…なぁ、井上。
色々あって、やっと解ったんだ。
「恋」ってヤツは、痛みだけじゃなくてこんなに幸せな感情も運んで来るんだってこと。
…そして、それがいつか「愛」ってヤツに変わる瞬間も、井上とならきっと見つかる気がするよ…。
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