世界一バカな男のV・D






「…つまり、要はそのチョコを一護に渡せばいいわけでしょ?」
「うう、そうですけど…。」

コーヒーを飲み干しながらそう言う乱菊の最もな指摘にも織姫の表情は冴えない。

「明日はたつきちゃん達と友チョコの交換する約束してたのに…。」

肩を落とす織姫。今からではチョコを作り直す時間も材料もない。
たつき達には正直に謝り、ホワイトデーにお返しをすることにしよう…と織姫は一応の解決策を見出だしていた。
しかし、いちばんの問題はそこではない。

「それに、黒崎くんにチョコを渡せないよう…。」

友チョコの振りをして一護にチョコを渡す計画そのものが、使えなくなってしまったのだ。

「別に、普通に手渡しすればいいんじゃないのぉ?」

豊かな金髪をかきあげながらそう言う乱菊に、織姫は焦って言い返す。

「そ、そんなことしたら、本命チョコだってわかっちゃうからだめです!」
「…本命チョコだって、わからなきゃ意味がないんじゃないの?」
「だって、黒崎くんに迷惑になっちゃうもん…。」

(((…そうか…?)))

二人の会話を横で聞いていたルキア達3人は、思わず顔を見合わせた。
「…一護のやつ、井上からの『本命チョコ』とかいうやつ、嫌がると思うか?」
「いや…井上の前では格好つけてさらりと受け取っておいて、あとで1人でニヤニヤするんだろうな、きっと…。」

こそこそと話すルキアと恋次の声は、真剣に悩む織姫には届いていない。

「ああっ、イイコト考えたわ、織姫!」

突然、織姫の纏う重い空気を一掃するように、乱菊が名案とばかりに明るく言い放った。

「え?いい考えがあるんですか?!」

ぱあっと顔を輝かせた織姫に、乱菊はにっこりと笑う。
そして、おもむろに織姫の着ているセーターの襟首を掴んで、思い切り下へ引っ張った。

「きゃああっ?!」

びっくりして目を丸くする織姫。
しかし、乱菊はそこから覗く織姫の2つの膨らみの谷間に、一護へのチョコの包みを無理矢理差し入れた。

「うーん、キツいわね。織姫ブラのサイズ上げたら?」
「ら、ら、ら、乱菊さんっ?!」

口に含んでいたコーヒーを同時に噴き出す恋次と冬獅郎、唖然として織姫と乱菊を見るルキア。

「こうやって胸にチョコを挟んで渡せば、一護だってイチコロよ~。」
「む、む、無理です!絶対無理~!」「何言ってるのよ、織姫!せっかくいいモン持ってるんだし、利用できる武器は、最大限利用しなきゃ!」
「いや…手渡しが無理だって言ってる井上に、胸渡しは更にハードルが高いのでは…。」

最もな意見を述べるルキアだったが、ふと隣を見れば。

「つーか、一護にもそりゃまだハードル高ぇよ…。」

一見目を逸らしながら、その実ちらりと織姫の方を見る恋次に気がついた。
一気に不機嫌になるルキア。

「…恋次、貴様鼻の下を伸ばしおって…!」
「な、ああ?!伸びてねぇよ!」
「うるさい!一護に言い付けてやる!」
「はぁ?!何で一護が出てくるんだよ!つーか、アイツ絶対そういうの根に持つタイプだからやめとけって!おい!」
「では、邪魔したな、井上!またな!」

窓を開け放ち飛び立っていくルキアを、恋次も急いで追いかけていく。

「悪い、井上!チョコのことが一護にバレない様にルキアはちゃんと止めるからよ!」

そう言い残して闇夜に消えていく恋次に、冬獅郎は深く溜め息をつくとゆっくりと腰を上げた。

「相変わらずな奴らだな。松本、俺達も帰るぞ。」
「は~い、隊長。あ、織姫、胸渡しするなら下着はもう少しセクシーなのがいいわよ。」
「し、しません!」
「うふふ。じゃ、頑張ってね、織姫!」

そう言って、冬獅郎と乱菊もまた、冬の夜空へと消えていった。


…その夜。
ベッドに潜り込み、一護にチョコを渡す方法を一生懸命に考える織姫。

…多分、一護はチョコを貰っても、誰かに見せたりはしない。
こっそりとチョコを渡すことが出来れば、周りの友人達にはバレずに済むはず。

けれど、肝心の一護に渡す際に何と言って渡せばいいのか。
こっそり渡しておいて「友チョコだよ!」は不自然だし、だからと言って「本命です」とはとても言えない。

「…そうだ!」

かつて漫画や小説でよく読んだ、古典的だが確実で、渡すときの言葉に困らずに済む方法が、織姫の頭にぴんっと閃いた。

「…机の中に、入れちゃおう!」

織姫は、枕元の目覚まし時計をいつもより30分早くにセットし直す。

「明日は朝いちばんに、黒崎くんの教室に行かなくちゃ。」

安心して、ベッドに潜り込む織姫。
次の日に起こる事件も知らずに…。




(2013.01.28)
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