世界一バカな男のW・D






「…つまり、この飴には特別な価値があるって言いたいわけね。」

乱菊がホワイトデーの話をそうまとめたので、織姫は力強く何度も頷く。

「でも、所詮飴じゃないって思っちゃうのよねぇ。」

織姫が大切そうに両手で抱える瓶を冴えない顔で見つめる乱菊に、織姫は思い出したようにはっとして叫んだ。

「そうだ、乱菊さん!黒崎くん、ちゃんとプレゼント付きのキャンディ選んでくれてるの!」

織姫はテーブルの角に置いてあった箱から、キャンディの瓶とセットになっていた布小物を取り出す。
透明なセロハンでくるまれたそれはキャンディに似せて両端をリボンで結んであり、セロハン越しに透けて見える小花柄が可愛らしかった。

「ね、乱菊さん。可愛いでしょう?」
「ふぅん…なぁに?それ。」
「えっと、開けてみないとわからないですけど…ハンカチかな?」

織姫はそう言いながらリボンをほどき、中身を取り出して目の前に広げる。

「…あ、れ…?」

思わず漏れる、織姫の間の抜けた声。
それもそのはず、はらりと広がったその布地は、織姫の思い描いた正方形ではなく、三角形で…。

「…織姫、それ…下着じゃないの?!」
「え…ええええっ?!」

真っ赤になって取り乱す織姫と、途端にぱあっと目を輝かせて興味深くそれを見る乱菊。

「ふぅん、一護ったら、意外とやるわね。」
「ち、ちが、違います!これはきっと何かの間違いで…!」
「しかもそれ、紐でサイドを結ぶタイプでしょ。一護にしては気の利いたプレゼントじゃない。」
「ひ、紐?!」

あわあわとしながらデザインを確認する織姫に、乱菊はくすりと妖艶な笑みを浮かべて尋ねる。

「…ねぇ、織姫。一護が何のためにそれを選んだか、解る?」
「え?ええっ?!そ、それは、その…わ、私が子供っぽいから、もう少し大人になるように…とか?」

混乱した頭で懸命に答えを絞り出す織姫に、乱菊は人差し指を立ててチッチッとわざとらしく首を振って見せた。

「は・ず・れ。答えはね…脱がすため、よ。」
「は、はいぃっ?!」

乱菊の答えの過激さに、織姫は思わず声を裏返させる。

「オトコがオンナに下着を贈る理由なんて、それしかないでしょ。それを織姫に着けてもらって、自分で脱がしたいのよ、一護は。…ああ、紐だからほどきたい、が正解かしら?」
「あ、あ、あ、有り得ません!黒崎くんに限ってそんなこと…!」

ブンブンと音がしそうなほど首を横に振る織姫を、乱菊はくすくすと笑いながら眺めた。

「やぁねぇ、一護だってオトコなんだから、それくらいの願望持ってても不思議はないでしょ。…って言うか、アンタ達、ぶっちゃけどこまで進んでるの?」
「ど、ど、どこまでって…!」
「だから、キスとか。」
「き、き、き…!」

織姫は激しく動揺し、金魚のように口をぱくぱくさせた。

確かに、バレンタインで本命チョコを渡して以来、一護と過ごす時間は少しずつ増えていて。

それでも『恋人同士』と言い切れるほどの進展はしておらず、未だ一護と手を繋いだことすらない織姫にそれ以上の展開など、既に想像の範疇を越えていた。

「な、何にもないです!本当に…!」
「じゃあ、これをきっかけに誘惑しちゃいなさいよ、織姫。」
「ゆ、ゆーわくぅ?!」

乱菊の口から次々と飛び出す過激な発言に、織姫の思考は既にショート寸前。
しかも乱菊は何を思ったのか織姫の豊かな膨らみを人差し指で「ぷにっ」と突っついた。

「ひゃ、ひゃああっ!」

思わず声を上げる織姫。
しかし、その織姫の反応に、乱菊は渋い表情を見せる。
「せっかくいいモノ持ってる癖に、反応にイマイチ艶が足りないのよねぇ、織姫は…。よぉし、このアタシが今からレクチャーしてあげるわ!」
「れ、レクチャーって何を…!」
「アタシの言う通りにすれば、一護もイチコロよ。うふふ、織姫は素材がいいだけに、鍛え甲斐があるわねぇ…。」

わきわきと両手の指を動かしながら、織姫にじりじりと近づく乱菊。

「とりあえずその下着を着けるところから始めましょうか、お・り・ひ・め。」
「む、む、む、無理ですぅ、乱菊さ~ん!」
「こら、逃げちゃダメよ!今から織姫を『お色気ムンムン一護悩殺モード』に変えてあげるから!」
「…う、うわ~ん!」


…かくして、冬獅郎が乱菊を連れ戻しに来るまで、織姫の必死の抵抗は続いたのだった…。





(2013.04.27)
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