世界一バカな男のW・D







《オマケ~織姫ちゃんの奮闘記・3月14日~》



「じゃあね!黒崎くん、夏梨ちゃん、遊子ちゃん!」

織姫は買い物袋片手に3人に手を振ると、足取りも軽くアパートの階段をかけ上がった。

玄関の鍵を開け部屋に入った織姫は買い物袋を冷蔵庫の側に置くと、今まで押さえていた興奮を爆発させたかの様にベッドへダイブし、クッションをぎゅぎゅっと抱き締めた。

「きゃああっ!黒崎くんにホワイトデーのお返し貰っちゃったよぅっ!」

一護達と買い物中は顔がにやけてしまうのを押し隠すのに必死だった織姫は、ここぞとばかりにベッドの上をゴロゴロと転がりながらはしゃぎまくった。

「嬉しいよぅっ!嬉しすぎて死んじゃいそうっ!…きゃあっ!」

あまりにはしゃぎ過ぎて危うくベッドから落ちそうになった織姫は、漸く少し落ち着きを取り戻す。

がばりと身体を起こした織姫は、テーブルの上にある包みを見た。
言うまでもなく、それは一護からのお返し。

「…あ、開けちゃおうかな…。」

すぐに中身を見てしまうのは何だか勿体ない様な気もしたが、織姫はテーブルの前にちょこんと座るとゆっくりと綺麗なラッピングをほどいていった。

「…わあ…!可愛い…!」

中身をそっと取り出すと、織姫は思わず声を上げた。
キャンディの入った瓶とハンカチらしきものがセットになっていて、これまた可愛らしい箱に入っている。

織姫は箱を痛めない様に丁寧にテープを剥がし、まずキャンディの瓶を取り出した。
色とりどりのそれは、さながら宝石の様で。

「えへへ…嬉しいなぁ…。」

織姫は胸がきゅんとするのを感じながら、飽きることなくその瓶を眺めた。

…多分、一護はホワイトデーにキャンディを贈る意味など知らないに違いない。
けれど、織姫はそれでも良かった。
たとえ偶然でも、一護が自分にお返しとしてキャンディを選んでくれた、その事実だけで織姫は十分に幸せだった。

それに、中身を見る限り、このお返しはその辺のスーパーなどで買った物ではない。
照れ屋な一護が、わざわざホワイトデーコーナーへと出向き、ガリガリと頭をかきながら店員にそっぽを向いてこれを買っているところを想像して、織姫はくすりと笑った。

「…ありがとう、黒崎くん。」

そう呟くと、織姫は迷った挙げ句に瓶からキャンディを1つだけ取り出す。

「食べちゃうの、何だか勿体ないけど…。明日、黒崎くんに感想聞かれるかもしれないよね…。」

勿論、食べなくたって正直にそう言えば一護は納得してくれるだろうが、一護はこういった類の物は実際に食べた方が喜んでくれる様な気がしていた。

細い指でそっと包みを剥がしキャンディをゆっくりと口に含めば、甘酸っぱさが口の中にジワッと広がる。

「…美味しい…。」

口の中から、今度は身体中に広がる幸福で甘い気持ち。
幸せ過ぎて涙腺が緩むのを感じながら、織姫はキャンディの味と一護への恋心をゆっくりと噛み締めた。



「はぁ~い、織姫!」
「ら、乱菊さん!」

しかし、織姫の幸せな時間に突然飛び込んで来たのは、例によって仕事から逃げ出してきた乱菊だった。

「なぁに?幸せそうな顔しちゃって…あ、それ?美味しそうねぇ…。」
「え?!だ、ダメです、これは今日貰ったばっかりで…いくら乱菊さんでもこれは絶対あげられません!」

織姫をからかう様にキャンディの瓶を指差す乱菊に、織姫は慌てて瓶を手に取るとぎゅっと抱き締める。
織姫のその態度を見れば、それが誰からの贈り物なのか乱菊には一目瞭然だった。

「別に、飴ぐらいで駄々こねたりしないから安心しなさいな。…どうせ一護がらみなんでしょ?」

乱菊のその言葉に、織姫の顔がぽんっと弾けた様に赤くなる。
織姫の正直な反応にクスクスと笑いながら、乱菊は彼女の横へと腰を下ろした。

「…それにしても、何の贈り物なの?織姫、誕生日か何かだった?しかも、贈り物に飴って…。もっと女が喜びそうな気の利いた物なかったのかしら。」
「ち、違うの!乱菊さん、あのね…。」

不思議そうにキャンディを見る乱菊。
織姫はちょうど1ヶ月前にバレンタインの説明をした様に、ホワイトデーの説明をしたのだった。





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