世界一バカな男のW・D







…更に翌日、放課後。

俺は昨日の失敗は繰り返すまいと心に誓って井上の教室へと向かった。

「…井上、いるか?」

俺は、決心が鈍らないうちに…との気合いから無意識の間に早足で歩いていたらしく、井上の教室にはまだほとんどの生徒が残っていた。

「く、く、く、黒崎くんっ!」

俺を見た途端、身体中に電気が走ったかの様にびしっと固まった井上は、鞄を手にすると油の切れたロボットみたいにガシャンガシャンと音がしそうな勢いでこちらへ歩いてくる。

…何か、昨日よりひどくなってねぇか…?

「お、お待たせしましたです!」
「いや、待ってねぇけど…喋り方までロボットみたいだぞ?…まぁいいや、行こうぜ。」

不自然すぎる井上の動きに対するクラスメイトからの微妙な視線。
俺はどうにも落ち着かず、その視線から逃げる様に井上と教室を後にした。





昨日歩いた川沿いの土手を、今日も二人で歩く。

あれほど決心したつもりなのに、いざとなったら何て切り出せばいいのか解らずに黙ってしまう俺。
井上も、そんな俺の横を俯いたまま黙って歩いている。その井上の顔が、僅かに赤く染まって見えるのは、少しオレンジに変わり始めた日差しのせいなのか…?

「あ、あのね…。」
「あ、あ~…、なんだ?」
「う、ううん、何でもない…。」
「そ、そっか…。」

何かを言いかけては再び口をつぐむ井上、それを上手く拾ってやることができない俺。
何とも言えないもどかしさにふと視線を落とせば、そこに咲いていたのは昨日の蒲公英。

…ああ、もしかしたら井上は、昨日俺が言った「良かったら明日にでも使ってくれ」ってヤツに答えようとしてくれたのかな…。

何となく直感的にそう思った俺は、そこを会話の糸口にしようと漸くまともに言葉を発した。

「ひょっとして、昨日の話か?」

俺のその一言に、井上がぴょこんっとバネ仕掛けの玩具の様に跳び跳ねる。

「う、ううううんっ!…あのね、その…えっと…ち、ちゃんと…使ってるから…ね…。」

顔を真っ赤に染めて恥ずかしそうに俯く井上は、何だかやけにいじらしく見えて。

ああ、もう今日こそ絶対に井上に告白してやる…俺は心の中でそう密かに決心した。

「そっか、ありがとな。…あ、じゃあ見せてもらってもいいか?」

別に疑ってる訳じゃないけど、やっぱり俺としては井上がハンカチを手にしてるところをちゃんと見たい訳で。

俺は軽い気持ちでそう言うと、視線を井上のスカートのポケット辺りに向けた。

「…え、ええええっ?!こ、ここで?!」

けれど、井上は顔を真っ赤にして、今までに俺が聞いたこともないような驚きの声を上げる。
そして両掌を俺の方に向けて、わたわたと後退りをした。

「それはっ!そ、そのっ…せ、せめてここじゃなくて、私の部屋とかでっ…きゃああっ!」
「井上っ!危ねぇっ…!」

2、3歩下がったところで土手の下り坂に足を踏み入れてしまった井上は、そのまま後ろへ派手に転倒。

けれど尻餅をついた井上を前に、俺は手を差し伸べるのも忘れて目の前の光景に目を見開いた。

大胆にめくれたスカートから覗くのは、M字を描く井上の白い2本の太もも。

そしてその中央、太ももの付け根を覆う白い布地は、確かに見覚えのある小花柄…。

「う、うわっ…!」
「いた…た…!き…きゃあああっ!」

井上が自分の状態に気付いたと同時に、物凄い勢いでスカートを引っ張りその場に小さくなって座り込んだ。
…その井上を前に、いろんな意味で衝撃的すぎて軽くパニック状態な俺の脳ミソ。

いや、勿論井上のスカートの中身をばっちり見てしまったことも十分に刺激的すぎるんだけど。
けど、それより何より衝撃的すぎる事実が俺を襲う。

お、俺がハンカチだと思って贈ったのは…実は、し、下着だったのか…?!

言葉を発することが出来ず立ち尽くす俺と、俯いてぺたりと座り込んだままの井上。

その頭上を、「あほう、あほう…。」と2羽のカラスが白々しく飛んで行った…。






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